疑心 ページ21
「どうなってんだ!!? なんで酒が爆発するんだ!!! だってこの酒はおれ達の船にあったヤツなんだろ!?」
『腹の中から爆発したように見えた』
「まさか、あの相手の巨人がお酒に爆薬を──」
“仕込んだ”
それ以上の言葉を言うなと、ルフィはビビに掴みかかる。100年も戦ってきた奴らがこんなくだらないことをするか、と怒鳴るルフィの圧に押されたビビは肩をビクつかせた。
ルフィの言葉は正しい。誇りやなんだと語っていた彼らが酒に爆薬を仕掛けるなどという姑息な真似をするはずがない。容疑者がいなくなったところで、Aは頭を悩ませながらビビからルフィを引き剥がす。
選択肢が狭まった今、一体誰が……
「貴様ラダ……」
『あァ？』
気迫を振りまきながら立ち上がったドリーは、欠けた歯も吐き出した血の跡も目に入らないほどの怒りを見せつけながらA達を見下ろす。目には殺意が、手に握られた剣からは殺気が感じられた。
「ゴフ……!! お前ラの他ニ誰を疑う……!!!!」
『……おれ達じゃねェ』
「A……貴様……なぜ飲まなかっタ……」
『あ？』
立ち上がったドリーを見上げたAは、質問の意図を理解できない顔で懐に手を突っ込んだ。
静かに、冷たいナイフの感触を手に握らせる。
「貴様か……A……!!!!!」
『話ぐらい聞けよ、ノッポジジイ』
疑心暗鬼に陥った者は、信頼したものでさえ簡単に手にかけて殺してしまうものである。
アリもしない物事を妄想し、被害を拡大していく。人間の心とは実に愚かで弱いのだろうか。
「いったん逃げましょう!! たぶん今は何を言っても無駄!!!」
「逃げてもたぶんムダだよ、こりゃ。……それに」
Aはやる気だ。
ナイフを両手に握りしめながら舌なめずりをする男の眼は、ビビから逃げるという選択肢を失わせた。
『下がってろお前ら』
「む、無茶よ……戦う気なの!!? いくら貴方でも体格が違いすぎる!!!」
『体格？ んな細かけェこと気にすんなよ。映画じゃァよく観るぜ、こういう場面』
「映画って!! これは違うのよ!!?」
『そう、違う。映画じゃあ苦戦して必死こいて死にそうながらもようやく勝つシーンだ。だが
ペン回しならぬナイフ回しを披露しながらも冷静沈着に、般若の形相でこちらを睨むドリーを眺めるAはニヤッと血の気が溢れるほどの笑みを浮かべた。
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作者名：ヒロ子 | 作成日時：2022年9月22日 19時
