“嘘つき”は神に祈る Ⅲ (ページ11)

今日:3 hit、昨日:4 hit、合計:33,520 hit

「最期まで、良い奴だった」ページ11

『まあ、王女様を送るんだ。当然狙われるよな』

　Aは、ため息とともに煙を吐き出す。妙に落ち着いた雰囲気は、大人の余裕と金への欲望を感じさせた。

　そんな彼とは裏腹に、悲しみに明け暮れるナミの前に「ご安心なされいっ!!!」と現れたのはイガラムだ。
　波紋状のキャミソールとポニーテールでビビを真似た格好を晒したイガラムは、ルフィのツボを刺激した。

『あァ、そういうご趣味がおありで』

「違う、断じて違いますからね？ちょっと、なんですかその顔!!」

『……』

「距離を取ろうとしないでください!!」

　引き気味で自分を睨みつけるAの視線に、イガラムは汗をかく。
　もちろん、彼にはそんな趣味などない。これは全てA達が無事にビビをアラバスタへ送り届けるための作戦だ。
　自分を囮に、敵の追っ手を引き受ける策略は、イガラムの男気を見せつけた。

「……行っちまった」

『最期まで良い奴だったな』

「勝手に殺すのやめてくれる？あれで結構頼りになるのよ？」

　イガラムとの涙の別れを果たす。
　月夜に照らされてアラバスタへと進む船に背を向けて、A達はビビを送ろうと船へ向かって一歩を踏み出す。その時だった──

　ドォオオオン！！！！！

『「「「「!!!?」」」」』

　背後から聞こえた爆発音が、追っ手の存在を主張した。
　静かだった海は、燃える帆船を包み込み真っ赤な波を立てる。イガラムとA達のダミー人形を包み込む炎は、敵の正体を暗示した。

「A、お前……」

『違ェよ……おえじゃねへよ』

　「最期まで良い奴だった」という今世紀最大のフラグを立てた男を睨みつけるゾロは、二度といらん事を言うな、という視線でAの頬を引っ張る。

　一瞬の出来事に状況を掴めなかった一同は、ルフィの「立派だった!!!!」の声に切り替えを促された。
　事態を必死に受け止めようと下唇を噛みながら、ゆらゆらと燃える炎を睨みつけるビビをナミは抱きしめた。

『おら行くぞ、追っ手に見つかればイガラムさんの二の舞だ』

　彼女達二人を急かすように、Aは抱き抱えてメリー号へと向かった。
　ルフィはサンジとウソップを、ゾロは出航の準備を果たし、A達が合流したことで船はウイスキーピークを後にする。

　一方、炎に揺られる影がひとつ。

「ばかね……おとりなんて」

　帆船が燃える海の上にて、謎の女が不敵に笑う。
　まるで、A達の未来を見透かすように。