【wrwrd】奇跡は使えない (ページ6)

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お姉ちゃんは朝早くから家を出ていった。でも、今日は村の見回りに行くわけじゃないって言っていたから、きっと教会に行ったんだと思う。鬱先生って人を怒らなきゃいけないからね。

私は教会に持っていく用に野菜とパンを購入した。神のお恵みは空中から湧き出るわけじゃない。野菜は自分たちでどうにかしても、毎日収穫があるわけじゃないし、パンなんて作り出すことは不可能だ。
神のお恵みとは、具体的に言うと教会に置いてある食事は食料のことだ。神に身を捧げた人間が購入した食料や、教会に寄付されたものは全てそう呼ばれる。
少ないお金しかないのに教会が運営出来ているのも、教会に助けられた人たちの寄付やおすそ分けで成り立っているからだ。

大量の食材を教会までえっちらおっちらと運んでいく。途中で他の騎士に会って運ぼうかと聞かれたが断った。奇跡が使えない分、私が教会にできることはこれくらいだ。私のお仕事を他の人に盗られるわけにはいかない。それに、見回りの騎士たちの邪魔をする訳にも行かない。

ようやく着いた教会の扉を開くと、それと同時にお姉ちゃんの声が響いた。

「こんな最低な盗人を許すと言うのですか！？」

ぐわん、と教会中に響くその声。教会のまっすぐ前には、オスマン枢機卿様とお姉ちゃん、ロボロさん、後鬱先生が居た。お姉ちゃんのよく響く声は教会中に反響していて、それと比例するようにオスマン枢機卿様の静かな声が聞こえた。
どうやら、種もみを盗んだ彼は神前裁判で無罪になったらしい。

お姉ちゃんは踵を返して教会を出ていく。私は荷物を抱え直し、お姉ちゃんとすれ違う。きっとこれから素振りでもしに行くんだと思う。お姉ちゃんはイライラした時はいつも魔物に八つ当たりする。間違えても私に八つ当たりなんてしないように。

「あ、君は昨日の……、手伝うよ！」

入口に立っている私に気付いたロボロさんが私の荷物を取る。止める間もなく取られてしまって、さっさと奥へと向かう。その間に、鬱先生も私の荷物を持とうとする。

「ロボロくんだけに良いところは見せられないし僕も───」
「結構です。お姉ちゃんは貴方のこと嫌いみたいだから。……ああでも、懺悔室においでくださるなら、懺悔の内容は聞きますよ。神の前ではみな平等ですから」

鬱先生とやらに背を向け、私は急いでロボロさんの背中を追いかけた。