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「わしには見えるだけじゃ。その魂もな」
「なるほど、天敵だ」
「そう気を荒立たせるではないわ、小僧」
盲目っぽいくせに目利きはできるらしい。厄介だなぁと首を掻く。口の軽い爺さんは嫌いなんだけど。
曲がり切った背、悪くなった足。それらを加味して、殺すのに1秒もいらないだろうと見当をつければ、タルボさんはこわやこわやと笑っている。ムッと口を尖らせて、弁明するように殺す気はないのだとこぼした。
「お主、信者じゃな？」
「さてね」
「胸元に蜘蛛足があるじゃろう。お主の涙が必要じゃ」
どういうことだと問う。タルボさんはマントの中から小瓶を取り出した。その中身は黒く、粘液のようだった。それがあと1滴ほど瓶の底にこびりついている。
「これは信者が愛しい人間を想って流した涙じゃ。滅多に流さん涙を、人間を想って流した代物は良い繋ぎになる」
「僕でなくても、信者は山ほどいるでしょ？」
「蜘蛛足の者に限られるんじゃ。のう、確かエンティティ、だったか？」
軽々しく名前を呼ぶなと吠えたくなる。衝動を抑えて、どうにか飲み干した。生憎だったね、と苦し紛れに言う。
「愛しい人間なんて、僕にはいないよ」
「そうか。なら、人間にはおらんだろう。だが、人間以外ならどうじゃ」
今度こそ叫びたかった。僕の何を知っているんだと問い詰めたかった。拳を握ってどうにか気持ちを落ち着かせようとしているのに、タルボさんは容赦なく言葉を続ける。
「神に抗い、神以外を愛した信者は半身を神と共有する。そうして、愛は神のみに捧げるようになる。お主が半神に成り上がった時点で愛した者があったと言っているようなものじゃ」
焦点が定まらなかった。オブセッションマークが熱い。
間違えたのだ。僕は間違えた。この老人に会う前に消えるべきだった。胸元を握る。熱い。熱くて、痛い。
「大昔の話じゃ。青年がいた。其奴はお主と同じ信者だった。しかし、其奴には愛しい人がいた。身を捧げる神とは別に、人間を愛おしく想った。それからしばらくして、彼奴はこの世を去った。黒い多関節の触手に連れ去られたという」
「のう、信者よ。奴には問えんかったが、お主には問おう。愛することは罪か？半神に成ることは罰か？」
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作者名：怜
| 作成日時：2023年2月20日 23時
