揺らぎ来る! ページ9
side:NO
***
Aが霧の中からナイフを取り出す。それを手にヒバリに向き直ると、トンファーを構えていた。歪に上がる口角をそのままに、Aがナイフを構える。2人から溢れ出した殺気は身体の芯まで重く伸し掛かった。
「ヒバリもそうだが、Aもなんて奴だ……」
「そうか。10年経ってやっとヒバリはAに追いついたんだな」
「どういうことだ、リボーン」
ラル・ミルチがリボーンを見る。口元に笑みを浮かべたリボーンは10年前のA、つまり現在ここに立っているAについて、ラル・ミルチに自分の知っている全てを話した。
Aという人間はエンティティの信者であること。彼の唯一の神であるエンティティ、その信者ということは文字通り化け物であることと同意義だ。ありとあらゆる攻撃に耐える強靭な肉体を、超再生を持つ体質を厭わないこと。猛々しくあることだけでなく、大局を見通し時に冷酷な判断を下す思考を持ち合わせていること。
全ての能力を常人より遥かに厳しい基準でクリアし、そうしてようやくエンティティに選ばれる。エンティティの信者でいられる。
そんな人間が“遊ぶ”といえども、一般人を殺さずにいられるのか。答えは否だ。いくら相手がヒバリだとしても、本気を出してしまえば赤子の手を捻るように、その息を止めてしまう。
「Aは殺さないようにずっと手加減をしていたんだぞ」
「バカな……」
「それが今手加減するような雰囲気はねぇ。あいつはようやく同等の人間を見つけたんだ」
嬉しそうに上気した頬、楽しそうに歪ませた口角。Aは逸る鼓動を抑えるように深呼吸をして、全意識をヒバリへ集中させる。少しでも動けば噛み付かれるのではないかと思わせる気迫を受けても、ヒバリは口角を上げるばかり。
「ヒバリも言っていただろ。Aは10年前から完成している、と。それが意味することが分からないほど、お前もバカじゃないはずだぞ」
「……本気で、言っていたのか」
「ヒバリは嘘をつかねぇ。Aに関しては尚更な。嘘を言うくらいなら、はなから言わねぇって選択肢を取る男だぞ」
52人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:怜 | 作成日時:2022年10月24日 23時