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それじゃあ、まるで……。まるでエンティティさまに許しを乞うたことがあるみたいで……。空いた口が塞がらなかった。
だって、エンティティさまが許されるはずがない。あの方が一介の人間の言葉に耳を傾けるなんてあるはずない。
「君がどう思おうと、何をしようと、僕は何度でも同じことをするよ」
「……どうして、それを僕に?むしろ躍起になって逃げるかもしれませんよ」
「それは、君が」
ごくりと喉が鳴る。眉を寄せたヒバリさんは苦しそうにした。それも一瞬で、また無表情に戻る。
「君が、見覚えのある表情をしていたからさ」
「見覚えのある、表情……?」
「僕から離れることを決意した表情だ」
その言葉で僕がミスをしたのだと悟った。ヒバリさんに勘付かれて逃げられなくなったのだろうと。僕もまだ人間だったのだと。そっか、と心中で呟いて笑う。
全ては風紀委員に入ったあのときから決まっていたんだ。とんだ人の隣にいると決めたものだ。やり直せるのなら、入学当初に戻りたいくらい。
僕の甘さも、ヒバリさんの勘の鋭さも、勘定に入れずに決めてしまったものだから、こんなことになってしまったんだ。
でも、やり直したとしても僕はまた同じ選択をしてしまいそうだね。だって、あのときの僕はどこか投げやりで、傷心気味で、冷静ではなかったから。
「ヒバリさんは、後悔してないんですか?」
「してない。するわけがないよ」
「……少しくらい迷ってくれません?」
即答されて脱力してしまう。泣きたいような、笑いたいような、複雑な気持ちだ。骨張った指が絶えず頬を撫でるのが心地いいと感じてしまうあたり、僕も絆されてるんだ。
でも、やっぱり、僕はエンティティさまのために。
「それでも、僕は逃げますからね」
「やってみなよ。結果は分かりきってるからね」
「あ〜!!僕の方が絶対強いのに!!悔しい!!」
ごろんと畳に寝転がる。悔しいはずなのに、どこか晴れやかな気分だった。
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作者名:怜 | 作成日時:2022年10月11日 19時