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それは一種の洗脳だった。両親の目を苦手としながら、両親の愛を求めてしまうのは子どもだからこそだ。
その幼気な心は両親に利用された。もっとも村人に助けを求めようにも、“神の使徒”に選ばれてしまったマティアを神聖化する者は多く、相談に乗ってもらうこともできなかったため、その洗脳に拍車がかかってしまったのだろう。
歪んでいく幼いマティアは2年もすれば、自ら汚職を手伝うようになっていた。それでも村は潰れることもなく、またマティアの自尊心を加速させていく。
──こんなことをしても村が機能しているのは私のおかげ。
──私が本当の“神の使徒”だから。
──神が私のことを助けてくれているんだわ。
15歳の頃、マティアは初めてエンティティの伝承を知った。実際に青年が攫われたという村の森に立ち入ったりもした。封鎖されているとはいえ、“神の使徒”が入ると言えば入れてしまうのだ。村人がどんなに反対していようとも、入れてしまったのだ。
そこは薄暗かった。森であろうと日が昇っていれば日光が差し込むだろう場所も、ジメジメと湿気があり、薄気味悪い場所だった。それを神の残り香だというのなら、何百年経っても風化していない痕跡から、エンティティという神はどの神よりも力を持っているのだろう。
そうして、マティアは確信を得た。自分こそが唯一の“神の使徒”なのだと。前回の“神の使徒”は偽者で、マティアが本物だからこそどんな悪行を果たしてもエンティティはマティアの住む村を見捨てられないのだろうと。
マティアは森に響くような大きな声で笑い、その日以降その行いはより過激になっていった。
──だって、私は本物の“神の使徒”だから。
──どんなことをしたって許されるの。
──マティアという人間がいる限り、安泰なのよ。
──だから、感謝しなさい。
──崇めなさい。
──この私を!
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作者名:怜 | 作成日時:2022年10月11日 19時