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少し残念な気持ちもあるけど、ヒバリさんが飼ってくれるならこの子は大丈夫だろうな。優しい人だから。
元気でね、と声をかければジタバタとヒバリさんの手でもがいていた。渋々手を離したヒバリさん、それと同時に鳥は僕の周りを飛び回る。両手を出してやると、そこに身を落ち着けた。
「A！A！」
「はあい？」
「A！」
「んふ、どうしたの？」
名前を呼ばれるたびに返事をしていれば、鳥の高い声に混じって低い声が僕を呼ぶ。パッと顔を上げれば、ヒバリさんは僕を見ていた。首を傾げれば、目を逸らされる。
「どうしてあのとき、あの場所に来てたの」
「あのとき……ああ、六道骸の。ヒバリさんが帰ってこなかったので」
「それだけ？」
「まあ、そうですね……？」
それがどうしたんだろう？意図が理解できなくてヒバリさんを見つめる。でも、満足したようにヒバリさんは寝転がって目を瞑ってしまった。この様子じゃ聞き出すのも至難の業だろうと思って、気にしないことにする。
特別意味はなかったのだと飲み込んで、鳥の方に意識を向けた。
Aと一際高く呼ばれて、なぁにと首を傾げる。パタパタと飛んだ鳥は勢いよく僕の顔面に飛び込んでくる。驚いて後ろに仰け反れば、勢いが良すぎて後ろに倒れ込んでしまった。
衝撃に備えようと目を固く閉じる。だけど、いつまで経ってもそんな衝撃はなく、恐る恐る目を開けた。
「何してるの」
「ひ、ヒバリさん……助かりました」
支えてくれている腕は決して軽くはない僕の体を抱き起こす。その腕の優しさにやっぱり先輩みたいだなって思った。
先輩……？まさか……？
心配になってヒバリさんの目を覗き込む。灰色がかかった黒い瞳は恋情を孕むような熱は持っていない。なんだ杞憂か、と胸を撫で下ろしてもう一度ヒバリさんにお礼を言った。
といっても僕が知っているのはあの苛烈な熱だけだということはすっかり失念していて、それを見つけるのは10年後の世界だということをこのときの僕はまだ知らない。
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作者名：怜
| 作成日時：2022年9月25日 23時
