ずるい ページ22
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いつも通りチャラン、と音を鳴らしたドア。
外に出て看板を立てる。
はあ、と一息つくと白い息はまだ出ない。
見上げた空は澄んでいて、夏よりずっとずっと高い。雲が遠くなっちゃった。
なんて顔を上げているといきなり真っ暗になる視界。
そして目元に感じる誰かの手。
「だーれだっ」
『ふふ、隼くん!』
くるりと回された私の体はぎゅっ、と腕に包まれた。
『わっ!』
「ぴんぽーん、大正解」
すっぽり埋まってしまった私に隼くんの顔は見えない。
離れたいけど、ぎゅっ、と強くなる隼くんの腕の力に叶うわけなくて、もう少しだけこうしていたい気持ちもあった。
『隼くん、苦しい』
「え?俺は暖かい」
『聞いてない』
「へへっ」
隼くんの胸から顔を離して少し上を見上げると鼻を真っ赤にした彼の姿。ニット帽を被るその姿にもう冬だと感じる。
「あーだめだめ、無意識かもしれないけどその上目遣いだめです。」
『・・・何言ってるかわかんないよ、隼くん。』
「もー、だからそういう顔しないでってば!」
『そんなこと言われても・・・』
「あー、やっぱりいい!Aさんはずっと笑ってて?ね?」
『変なの』
寒い寒い、って何事も無かったようにお店に入ろうとする隼くん。なんなんだ、この人。今日は言ったら言っぱなし。私にはなんの理解も出来ずに会話が終わってく。
隼くんがドアを開けようとした時、振り返って私と目が合った。今度は至って真面目な表情。
「俺が目を隠して驚かせたり、抱きしめたりするのはAさんだけだから。俺はAさんのことが好きだから。だからね、上目遣いも、ちょっと眉毛の下がった可愛い顔も俺にしかしちゃいけないの。わかった?」
『隼くんが私のことを好きだからダメなの?』
「そ。もう1回言うよ」
『・・・わっ、』
グイッ、と引かれた腕。
顔の横に隼くんの顔がある。
耳元に寄せられた隼くんの口元。
息が直接かかってくすぐったい。
こんな私の状況も知らずに彼はこう言うの。
「俺はAさんが好きです」
『・・・っ、は、やとくん、!』
「へへっ、やっとドキドキしてくれるようになりました?」
『し、してません!』
この人はとことんずるい人。
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くるみ。(プロフ) - 彩華さん» わー!ありがとうございます! (2020年4月16日 9時) (レス) id: dcb2ebda86 (このIDを非表示/違反報告)
彩華(プロフ) - 早速読んじゃいました!アマリリス(^_^)こっちもとっても素敵なお話でした!続編楽しみです! (2020年4月16日 5時) (レス) id: 303c26c9ac (このIDを非表示/違反報告)
くるみ。(プロフ) - 愛さん» あらあら笑 (2018年12月26日 20時) (レス) id: dcb2ebda86 (このIDを非表示/違反報告)
愛(プロフ) - 北人くんともくっついて欲しくなりました(笑) (2018年12月26日 2時) (レス) id: d15d3a289f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:くるみ。 | 作成日時:2018年9月12日 5時