45 猫 ページ48
悲鳴嶼side
日が高い午後は猫を撫でるにかぎる。
日光で温まった膝の上は居心地がいいのか、飼い猫がこぞって周りに集まってくる。
やはり愛らしい。
その中から無造作に一匹すくい上げて膝に乗せれば、満足げに鳴いた。
この毛並みはシロ...いや、フクか。
Aを炎柱のところにやって七日が過ぎようとしていた。
問題はあの子のことだ。
この三年間であの子のいる生活に慣れてしまった。
あの声が聞こえないことに不満を感じるほどAは生活に侵食していた。
…嘆かわしいことだ。
背中を撫でていたはずだが気づかぬうちに腕、手と伸びて行き、そのままその柔い肉球を触っていたようで、フクは不満を漏らしてするりと腕の間から逃げてしまった。
「...すまない」
手。
やはり、手を繋ぐのがいけなかった。
あれで絆されてしまったのだ。
街へ出た時に試すような真似をした。
街を歩くのは疲れるがけしてままならないわけではない。
一興のようなものだった。
あの子供は今でも私の手をとるのかと興味が湧いた。
Aは正体を明かさない割に、好物の時に限って似た味付けのものをだす。
己の身を隠すためとらないだろうと予想していたが、あの子は嘘を信じ、差し出した手を迷うことなく重ねたのだ。
素振りも盲目を気遣う丁寧なものだった。
人の流れの他に、地形、段差まで注意深く細かく先導するその優しさはあの頃と変わらない。
それに後ろめたさを感じてしまった。
私は人より疑り深い性格であると認めている。
しかしAの行動が悪事を隠すための演技だというのなら根拠がない。
現に三年間共に過ごしていたが、怪しい行動なぞなかった。
何もなかったのだ。
「南無…」
ここが潮時なのではないか。
あの夜も何か手違いがあったはずだ。
まじめなAのことだ。反論しようとしたものの、なにかに巻き込まれ、弁論に参加できなかったと考えるのが妥当ではないか。
もしくは子供の意見だと相手にされなかったか。さよが「あの人」といったから話がややこしくなったのかもしれない。
冷静に考えれば理解できること。
素性を明かさないことが少々引っ掛かるが、そのうち切り出してくれるだろう。
それまでしばし待つことにしよう。
先ほどの猫が鳴く。
機嫌を直したようで、太ももに触れたかと思えばするりと足の間に収まる。
やはり猫は可愛い。
次は肉球に触れないよう用心して撫でた。
211人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
春駒(プロフ) - b0t1s26さん» 悲鳴嶼さん推しがいっぱい…!!嬉しいです!更新頑張ります! (2020年4月6日 17時) (レス) id: db12751af0 (このIDを非表示/違反報告)
b0t1s26(プロフ) - ひめじまさん推しなので嬉しいです!更新楽しみに待ってます! (2020年4月5日 23時) (レス) id: ee722d4776 (このIDを非表示/違反報告)
春駒(プロフ) - ツカサさん» 悲鳴嶼さん格好いいですよね…!!更新頑張ります! (2020年4月5日 11時) (レス) id: db12751af0 (このIDを非表示/違反報告)
ツカサ(プロフ) - ひめじまさん大好きなので、めちゃんこ好きです……!文才も分けて欲しいくらい!最高です!応援してます。 (2020年4月5日 6時) (レス) id: f3ba525ade (このIDを非表示/違反報告)
春駒(プロフ) - もむさん» 誤字脱字のご確認ありがとうございました!早速直します! (2020年3月30日 23時) (レス) id: db12751af0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:春駒 | 作成日時:2020年2月11日 16時