【wrwrd】それぞれの物語【短編集】 (ページ1)

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とある洋館の悲劇:utu ページ1

※死ネタ

　息をするのも苦しい緊張感。
　誰が村人か、誰が人狼か、疑心暗鬼が渦巻く中でひっそりと息を潜めエモノを待ち伏せる。
　キリキリと引き絞った弓が震える。
(大先生は今どこだろう……)
　頭にチラつくのは愛しい彼のこと。
　人と狼━━許されざる関係なのは分かっている。けれど理屈ではないのだ、愛してしまったのだ。
　裏切り者と罵られても、狂っていると罵倒されても良いと思えるほど愛してしまったのだ。

『こんな所二人で逃げ出そう！僕と一緒になって欲しい』

　今でも彼の言葉を思い出すと頬が熱くなる。
　浮かれた思考を振り払うように頭を振り、廊下を警戒する。
　すると階段から恐る恐る上がってくるロボロの姿が見えた。
　ごめんね、ごめんねと心の中で謝るも真っ直ぐに矢を飛ばす。
　ヒュンッと風を切る音が鳴り、ロボロの心臓に深く刺さるのが確認できた。呻き声も上げられず倒れていくロボロに歓喜してしまう。
　もしかしたらこれで大先生に褒めてもらえるかもしれない。また1歩彼との未来に近ずいたのだ。
　はっきり言って浮かれていた。その浮かれからの油断だったのだろう、私は気づけなかったのだ。
　窓から侵入してきた脅威の存在に。
「A……お前なにロボロ殺っとんねん」
　窓枠に足を掛けたゾムの弓がこちらに向いている。
　逃げろ逃げろと頭は警戒音を鳴らすも恐怖で指一本動かせない。
「あ、ゾ━━」
「お前が、人狼やってんな」
　ゾムが弓を放つのと私が後ろに引かれるのは同時だった。
「走るでAちゃん！」
　腕を掴んで走ってくれる大先生がヒーローに見えて、どうしようもなく気分が高揚してしまう。
「だ、いせんせい！」
「ロボロ殺ったのはデカいで、ゾムを巻けばあと残っとるんはエミさんだけやし、逃げれるやろ」
　シャロオンがエーミールを引き付けてくれている間に逃げろと、言ったらしい。他は大先生の情報撹乱で３階に集まってるらしい。
「安心しい、僕が守るから、二人で逃げてどっかで隠れ家的パン屋さんやろうや！」
　昔から聞いていた彼の夢。ようやく叶えられる、ようやく幸せになれる！
　そんな儚い希望は無常にも簡単に打ち砕かれる。