一 二 ページ3
事実は小説より奇なり、とはよく言ったものだ。
まさかこんなファンタジックなことが自身の身に降りかかるなんて思ってもいなかった。
しかしそんなことを悠長に考えてる暇はない。
それが分かったからといって、息苦しさから解放されるわけでもなく、依然として少年は私を見続ける。
そして、言った。
「死ね」
死。其れは、先生方が一度だけ経験した、人間では超えられぬ壁。
壁の向こうには何もなく、ただ消えるのみ。
恐怖。
そんな本能から、私の頬に何かあたたかいものが流れた。
少年は、それを見るなり目を見開き、私を投げ捨てた。
突然の事に受け身をとれず、思い切り背中を打ち付ける。入ってくる酸素を受け入れきれず、思わず咳をした。
涙目になりながら、少年を睨みつけた。
少年の手には、黒い液体がついていた。
それは間違いなく洋墨。私が普段使っているそれだ。
なぜ彼の手にそれが付いているのだろう。一瞬疑問に思うが、今が逃げられる絶好のチャンスだと気づいた。
もしかしたら、これを逃すともう好機は訪れないかもしれない。
チャンスを無駄にするわけにはいかない。
それに気づけば後は早い。すぐに立ち上がって、走り出す。
「! 待て、貴様!」
後ろから声が聞こえたが、振り返りも止まりもしない。
止まるな、止まるな。止まれば死ぬぞ。走れ、走れ!足を動かせ!
頭の中で復唱しながら、私は必死に逃げた。
……芥川君、又勝手に走り出して、一体どうしたというんだい?
……太宰さん。先刻、此方におかしな餓鬼がいて……
……へぇ?どんな?
……なにやら、妙に綺麗な身なりだったり、目から洋墨を流したりと、とにかく、異様な娘でした
……その子は?今どこにいるの?
……申し訳ありません、逃がしてしまいました
……あっそ。つまらないなぁ
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作者名:ウルフ | 作成日時:2018年3月21日 11時