ずっと前からオマエしか見てねえよ【灰谷蘭】

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……兄貴も嫌な奴だな。
忘れちまえなんて言ってんのに、こんなの預けたらコイツが忘れられるわけないだろ。



しかも最後の最後でキスかよ。口に出来ねえところが兄貴っぽかったけどな。







でも、兄貴も本当はずっと覚えていてほしいからこんな真似してるんだ。






俺だって生まれてきてからほとんどを一緒に過ごした兄妹のようなAと離れるのは惜しかった。


ただ……好きな女と離れなきゃいけねえ兄貴の気持ちの方がずっと辛いものだろうから。







モッチーや獅音パイセンたちもサツに連行され、ついに俺たちの番が回ってきた。
心配そうに俺たちを見つめるAを斬り捨てるように背を向けて、歩み出す。




手錠を嵌められる寸前に俺たちはもう一度だけアイツの方を振り返った。

もうこれで終わりだ。




二度とアイツの方を振り向くつもりはない。
まあでも、最後のアイツの顔が泣き顔ってのだけが後悔かな。






・


『竜胆、行くぞ』



『……兄ちゃん、』



『はは、アイツのことまた泣かせちまった。……でも、これで良かったんだよな』



車に乗り込む前、兄貴がポツリと呟いた。


あの時の悲しそうな表情が十二年経った今でも脳裏にこびりついて離れない。




『じゃあな、A』




最後に兄貴はアイツの名を噛み締めるように呟いて、ぱちりと一つ瞬きをした。

そして再び目を開けた兄貴はもういつもの表情に戻っていて、これで本当に終わりを告げた。





はずだった。

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