第172話 偶然 ページ36
私が刺したシルバー・リンスキーもこんな景色を見ていたのかな。
悪いことをすると自分にも返ってきちゃうんだ。
でも……
「私から……あの人を奪わないで」
一つだけ確かなことがある。
「っ、ら、うさん……は」
私は腹部からドクドクと血が流れでていくのを感じながら必死に言葉を紡ぐ。
「さい、しょから、貴方のものじゃ……ないっ」
「!」
「あな、たのことなんか……見て、ないから……」
奪うも何も、最初からあの人は……
「劉、さんは……わ、たしだけの……たい、せつな人なの……」
「黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!」
何度刺されても、痛みなんてちっとも感じなくなって。
目が段々と霞むのが分かる。
これが多分、“死”というものなんだ。
「……あ、なたは……」
「……ッ」
「わた、しのこと……き、らいっ……?」
「大嫌いよ!!」
そっか。
良かった。
私も貴方のこと大嫌い。
だから、これで……____________
「おあいこッ……!」
「!?」
太ももにつけていたレッグホルスターから拳銃を取り出し、その銃口を女性の顎下に突きつける。
女性が息を吸い込んだその瞬間、私は引き金を引いた。
ドカンッとトカレフ拳銃らしい銃声の後、顔中に血飛沫が飛ぶ。
霞む視界の中、女性の顔面と前頭葉が吹き飛んだのが分かった。そのまま倒れ込んできた女性を押しのけて私は腹部に刺さっていた短刀を抜き取った。
女性はまだ若干息があるのか、ひゅっひゅっと空気が掠れる音がする。
とどめを刺さなくても、いずれ息絶える。
私は必死に口から酸素を取り込む。
「っ、は……」
「名前ちゃん」
もう周りの音も聞こえなくなってきた頃、鼓膜に響いたのは聞き覚えのある男の人の声。
「ロ、ナ……ルド、さん……?」
「なんか見覚えのある状況だね……いや、少し違うか」
「……な、で……」
「リストに君の名前があったんだよ。また人違いならいいのにって思った……初めて会ったあの時みたいに」
二人の死神の勘違いから生まれた偶然的な出会い。
そんなこともあったなぁ……なんて呑気なことを考える。
そんな余裕もうないのに。
ロナルドさんは自分のスーツに血がつくことなど気にすることなくそっと寄り添ってくれた。
見上げた彼の顔は酷く歪んでいた。
まるで、今にも泣き出しそうな、そんな顔。
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古畑のねこ(プロフ) - oemi200174さん» こちらこそ最後までお読み下さり、本当にありがとうございました……!現在「溺愛、死」のその後のお話を執筆しておりますので、良ければ是非読んで頂けると嬉しいです……! (2022年4月18日 15時) (レス) id: f94598afd5 (このIDを非表示/違反報告)
oemi200174(プロフ) - 最後までありがとうございました!素敵な作品に出会えてよかったです!これからも応援してます!!!! (2022年3月20日 0時) (レス) @page50 id: bdeac365d5 (このIDを非表示/違反報告)
古畑のねこ(プロフ) - しののしさん» ありがとうございます……そう言って頂けてすごく嬉しいです。これからも頑張ります! (2022年1月8日 23時) (レス) id: f94598afd5 (このIDを非表示/違反報告)
しののし - 最高です。更新楽しみに待ってます。 (2022年1月1日 12時) (レス) @page26 id: 969dc0e871 (このIDを非表示/違反報告)
古畑のねこ(プロフ) - アリアさん» ありがとうございます!素敵な最終回になるよう、頑張ります! (2021年12月12日 0時) (レス) id: f94598afd5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:古畑のねこ | 作成日時:2021年9月25日 4時