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夕暮れの稲妻町を歩く。気づけば足は病院へと動いていた。どこもかしこも橙色で、太陽を無意識に求めていたのかもしれない。こんな時間じゃサッカーはおろか面会もできないのに。
「……あれ」
咄嗟に物陰に隠れる。病院の入口付近にある二つの影。松風君と剣城だった。
「お前だってあるだろ!? がむしゃらにボールを追っかけて、それだけで楽しくて、ワクワクして……! そんなサッカーをしてた事が! 」
大きな声で話す松風君がすれ違う人々に好奇の目を向けられている。そんな彼に構わず、剣城は涼し気に横断歩道を渡って人混みへと消えた。
その場で立ち往生する松風君に私は駆け寄る。とても彼を無視してどこかに行くなんて出来なかった。
「反田さん。……見てたんだ」
「う、ごめん。盗み見るつもりじゃ」
いいよ、と笑う松風君だが、またすぐに顔を歪ませた。
「何でだよ……本当のサッカーがしたいって、そんなにいけない事なのか……? 」
「松風君……」
少しの間沈黙が続いたが、松風君がふと思いついた様な調子で私に問いかけてくる。
「反田さんは、なんでシードになろうって思ったの? 」
「え? 」
「だって、君も剣城もサッカーが大好きな筈なのに」
松風君の青い瞳が私を射た。
「私がシードになったのはホーリーロードに出たいからだよ。フィフスセクターの管理サッカーを守ろうなんて思ってない、寧ろ大嫌い! 」
「あっ……! そっか、女の子は公式試合に出れないから」
「そうそう。でも言われてみれば、剣城はどうしてシードになったんだろうね? 」
「うん……、……剣城はあんなに凄いシュートが打てるんだ。いっぱい練習しなきゃ出来ないよ。くだらないって口では言うけど、サッカーが嫌いな訳ない! 」
松風君の考えには私も全面的に肯定したい。どれだけ出世欲があろうとサッカーが好きでもなければここまで続けてはこれないだろう。
じゃあ別の理由? 私がホーリーロードに出たいが為にシードになった様に、剣城にものっぴきならない事情があった?
「──」
「反田さん? 」
「う、ううん。何でもない」
「そう? 」
「あのね、次の試合、南沢さんの代わりに剣城が出るんだって」
「えっ! 俺、反田さんが出るんだと思ってた」
「うーん私も出たかったけど……でも、私信じてるんだ。剣城を! アイツならきっと本気のサッカーやってくれるって。私も松風君みたいに、本当は剣城サッカー大好きだって分かるから! 」
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やに(プロフ) - 杳覇さん» くらちゃんコメントありがとうございます(^^) 頑張りますー! あと早速誤字やらかしているので、読み直し徹底して行きたいと思います恥 (2021年7月12日 10時) (レス) id: 73f24c4202 (このIDを非表示/違反報告)
杳覇(プロフ) - よっしゃ新作きたーー!!! あああ一話目から面白そう……!! え、え、めっちゃ楽しみです……!! 更新待ってます!! あとその、「急な転向」って「急な転校」ではないでしょうか……! (2021年7月12日 10時) (レス) id: 7468c0248e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:やに | 作成日時:2021年7月12日 10時