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「どこ行ったんだろうな剣城の奴」
「もしかしてトイレとか? 」
「張り込み、する? 」
カメラを構えた茜さんが言うと本当の探偵みたいだ。女子三人で男子トイレの前で待ち伏せする絵面を想像してみる。……怪しさ満載だ。男子トイレを調べる係として松風君か西園君のどちらかについてきてもらうべきだった。
三人で病院の廊下を歩いていると、ふと視界の端に白い物が映った。窓辺に寄って外を見ると患者の子供達が中庭でサッカーボールを蹴っている。
その中のある男の子から私は目が離せなくなっていた。彼は複数人に囲まれても、軽やかな身のこなしでボールをキープしている。体幹が特別いいのではない。だからあくまであの動きはセンス、天性の才能由来だろう。
「茜さん、あの子の写真撮ってくれま──」
興奮気味に振り返るが、先程までいた二人の影も形も見当たらない。
まさか、
「置いてかれちゃった!? 」
それから私は急いで(走ると怒られるのではや歩きで)先輩や松風君達を探して回ったが、とんと見つからない。勿論剣城の姿も。
仕方無しに外へ出ると、ベンチにあの男の子が座っていた。先程まで遊んでいた友達は病室へと戻ったのだろう。一人サッカーボールを腿に置いて座る様子からは哀愁が滲む。
「……ん? 何か用ですか? 」
不思議そうな顔をする彼に、私は質問する。
「サッカー好きなの? 」
「うん。もしかして君も? 」
「え! 超能力……? 」
「面白いなぁ、君。自分が着てる服見てみてよ」
「あ」──雷門中ユニフォーム!
「誰だってサッカー好きなんだろうなって思うでしょ? 」
そう笑ってポンとベンチを右手で叩く。横に座っていいのかな。
「さっき見てたよ。サッカー上手いね」
「そう? ありがとう」
彼の隣に腰掛けると病院の匂いがした。パジャマを着ているし、どこか悪くて入院しているのだろうがまるで不調には思えない。
「病気? は、大丈夫なの? 」
「……大丈夫」
「じゃあ! 私ともサッカーしてくれない!? 」
「え? 」
今までの穏やかで大人びた雰囲気は一変して、無邪気な子供らしいものへと移る。彼はこうしてはいられないと言わんばかりに勢い良く立ち上がると、サッカーボールを私へと投げ渡してきた。
「やろうやろう! 」
「うん! 」
体温が上がる。破顔する彼の笑顔が眩しい。
私は羽織っていたジャージを脱ぎ、ボールに足を乗せた。
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やに(プロフ) - 杳覇さん» くらちゃんコメントありがとうございます(^^) 頑張りますー! あと早速誤字やらかしているので、読み直し徹底して行きたいと思います恥 (2021年7月12日 10時) (レス) id: 73f24c4202 (このIDを非表示/違反報告)
杳覇(プロフ) - よっしゃ新作きたーー!!! あああ一話目から面白そう……!! え、え、めっちゃ楽しみです……!! 更新待ってます!! あとその、「急な転向」って「急な転校」ではないでしょうか……! (2021年7月12日 10時) (レス) id: 7468c0248e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:やに | 作成日時:2021年7月12日 10時