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「狩屋が来てちょっと焦ってたんだ」
帰路で信助は私達に言った。
「だから余計に必殺技を完成させなきゃって頭でいっぱいだったのかも。ディフェンス技からシュート技にするとか……もっと言うならヘディングじゃなくてキックにするとか絶対思いつかなかったよ」
「それは先輩達に感謝だね! 私も信助と同じで、ヘディングをどう強化するかって悩んで終わりだった気がするし」
「うんうん。やっぱり先輩達と練習するのって勉強になるよ! 」
「……ありがとう、二人共! 」
信助が破顔する。私は松風と顔を見合わせた後、揃って笑った。
「次はヘディングを使った必殺技を編み出そうな! 」
「えー気が早くない? 」
「何言ってるんだよ〜まさかヘディングはそのままにしておく気だったの? 勿体無いやん! 」
「そうだよ! 俺達ならこれからもっと色んな必殺技身につけて、もっと強くなるんだ! 」
松風の言葉に私は強く頷く。
「あっ、化身! 化身出そうよ信助! 」
「だから気が早いってー! 」
『帝国戦に向けて新しいシューズ。買おうと思っているんです。オススメを教えてください! 』
『@しんすけ 一概には言えないな。素材によっても感覚が変わってくるし何より足にフィットしていなければ。』
『@しんどう そういうのは実際に履いてみるのが一番だ。帰りに買い物に付き合うぜ』
『@きりの ありがとうございます! 』
自宅でイナッターを覗くと信助の投稿に目がいった。
「いいなー。私も先輩にスパイク選びとかしたい、練習見てもらいたーい……」
最近は信助の必殺技特訓に付きっきりだったのもあるが、先輩とワンツーマンで練習する機会はまだ訪れていない。
フォワードの先輩と言えば倉間先輩だ。万能坂戦前はそもそもフィフスセクターに従っていたから誘っても練習にすら来てくれなかったし、今はアルティメットサンダーの最後のキッカー候補として忙しくしているので私は全く相手にしてもらえずにいる。
ベッドへと倒れ込むと、携帯が鳴った。イナッターの通知音ではないそれは通話の呼び出しだった。
「──」
体温が急に下がる。
それが諦めてくれるまでずっと息を殺して、体を縮めた。
『マネージャー業のシードを育成した結果女子サッカーは衰退した。サッカーは、全ての少年少女に平等に与えられなくてはならない。反田典子。さしずめ君は自由の女神だ』
いいえ。
そうだ、私は火だったのだ。
欲しくてならぬ。ああ、私は──
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作者名:やに | 作成日時:2022年8月26日 1時