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｢Aさん｣
昼休み明け、少し前にすれ違いざま部長に頼まれた仕事を片付けようとPCに向かった時、声をかけられた。
そこに居たのは宮内くん。
｢Aさんって、水族館好きですか？｣
いつもほとんど雑談なんてしない宮内くんが突然そんなことを聞いてきたので、正直驚いた。
しかも好きな水族館の話題…
｢好きだよ〜
たまに行く！｣
｢よかった！
これ、水族館のチケットなんですけど…
よかったら行きませんか？｣
そう言って宮内くんは水族館のチケットを差し出した。
これって、デートってことだよね？
一瞬、裕の顔が浮かんだ。
私達は幼なじみだし、裕だって私に言いはしないけど、最近茉莉香ちゃんと前より仲良くなってるの知ってる。
茉莉香ちゃん、裕のこと狙ってるって言ってたし、うまくいくのも時間の問題かな…？
私ももう30だし、呑気にしてたら婚期逃しちゃう。
数打ちゃ当たるじゃないけど、デートくらい行ってもいいよね。
宮内くん、悪い人ではなさそうだし…
｢ありがとう。ぜひ｣
出来るだけ可愛らしい笑顔でチケットを受け取った。
宮内くんの表情がみるみるうちに明るくなる。
わかりやすいなぁ。
｢それじゃあさっそく、来週の土曜とかどうですか？｣
｢うん。大丈夫。｣
それから詳細は後でやり取りしようということになり、宮内くんは自分のデスクに戻っていった。
そう言えば宮内くんの隣のデスクは裕だ。
宮内くんを見るふりをして裕を見た。
こちらに背中を向けて、仕事に集中しているようだった。
よかった。気づかれてないみたい。
ほっと胸を撫で下ろす。
別に見られたっていいのに、どうして そんなこと気にしているんだろう…
私の中で小さなモヤモヤがまたひとつ大きくなった気がする。
このこと、裕には黙っておこう。
何となく、そう思った。
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作者名：神八爽蘭
| 作成日時：2020年5月19日 8時
