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「っ…うらたさ、」
『ふふ、やっと声聴けた。……どうした?何かあった?』
携帯越しに脳髄に優しく響いた低い声に、冷たい全身に温かいものが流れ込んだかのような安心感を覚える。口数の少ない私に違和感を感じたのか、私に電話をかけてきた張本人であるうらたさんは私を気遣うように声をかけてきた。
『……ううん、やっぱり今は話さなくていいや。けどひとつだけ教えて。』
「?」
『今、どこにいる?』
少しだけ声音を下げて質問をするうらたさんに、私は無意識の内に「……〇〇ホテル。」と唇を動かしていた。少し電波が悪かったら聞き取らないような私の声も正確に理解した彼は『おっけ。そこで待ってて。』と短く答える。
「え、もしかして」
『はいはい、お姫様は大人しく王子様のお迎えを待っててくださいね』
私に答える隙も与えずに通話が切れる。唖然としながら通話終了画面を眺めるも、ただ無機質にプーップーッと機械音声がスピーカーから流れてくるだけだった。
「こーら、どこに行こうとしてんの」
「!」
手早く身支度を済ませてホテルから出た瞬間に、不意に後ろから手を掴まれる。ぱっと反射的に振り返った先にはハァハァと軽く息を乱したうらたさんが、それでも安心したように小さく微笑んでいた。
「今から時間ある?」
「…ない」
「あるのね。じゃあ俺に付き合って」
「……」
質問の意味は何だったのだろうか。されるがままに手を引かれる私の目線の先には、濃緑のパーカーに黒のジーンズというラフな格好をするうらたさんの姿。私に電話をかけた直後にそのまま家を飛び出したのだろう。
「ねえ、どうして来てくれたの?」
先程から疑問になっていたことを尋ねた。そろそろ日付が変わる時間帯だ。コツコツと人気の少ない大通りに二人分の靴音が響いている。
「どうして、か。」
「うん」
「……んー、」
「?」
_____取られたくないから。
向こうから走ってきた大型車のライトが私たち二人を大きく照らす。そこに浮かび上がったうらたさんの影が何かを呟いた気がしたが、走行音に掻き消されて聞き取れなかった。
「?ごめん、上手く聞き取れなかった」
「ううん、何でもない」
「でも」
「ほら、着いたよ。」
私の質問には答えずに話を逸らしたうらたさんの目線の先には、見覚えのあるバーの入口があった。
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らむ(プロフ) - みさきさん» みさき様 コメントありがとうございます!更新速度は遅くなるかもしれませんが、完結までお付き合いいただけると嬉しいです✿ (2022年9月19日 12時) (レス) @page44 id: 246795febf (このIDを非表示/違反報告)
みさき - 頑張ってください! (2022年7月27日 0時) (レス) @page39 id: 734386537b (このIDを非表示/違反報告)
らむ(プロフ) - アヒルさん» アヒル様 コメントありがとうございます。楽しんでいただけて何よりでございます✿今後もどうぞ宜しくお願いいたします。 (2022年7月2日 9時) (レス) @page19 id: 246795febf (このIDを非表示/違反報告)
アヒル - らむさん、やばいです。 めちゃくちゃ好きすぎて、友達にすすめちゃいましたww これからも、頑張ってください! (2022年7月2日 6時) (レス) @page1 id: f44091270b (このIDを非表示/違反報告)
らむ(プロフ) - 翔さん» 翔様 コメントありがとうございます!当方の単なる妄想話にも関わらず、翔様に楽しんでいただけて嬉しい限りでございます。原曲もとても素敵な曲ですよね🌷今後も更新を続けてまいりますので、息抜きの際にでも是非お楽しみくださいませ。 (2022年6月30日 0時) (レス) @page11 id: 246795febf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:らむ | 作成日時:2022年6月27日 10時