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見慣れた表情と光景。息を荒くさせた男性に釣られるように私も呼吸を乱して目の前の男を見上げる。鼓膜を響かせるのは肌と肌がぶつかる音。
「っ…いきそ、」
「っ」
「ナカに出してい?」
「は」
突然の予想外の質問に、冷水をかけられた気分でぱっと面を上げた私に「ね、いいでしょ?」と頬を紅潮させて尋ねる名前も知らない男。
「どういうこと?ゴム付けてたよね?」
「ふふ、ゴムなら途中で外したよ」
「何言ってるの、今すぐ抜いて」
全身で拒否を示した私は必死に逃れようとするも、行為中の更に男女の力の差の下では何ひとつ効果は発揮されない。
いつもなら気付けたはずなのに。志麻の優しさに慣れてしまった今、そういうことへの感覚が鈍っていた。
「っ、いく、」
「は」
呆然とする私の上で、何かを堪えるように体を震わせる男性。お腹の奥で生暖かいものが広がっていく感覚に嘔吐のような気持ち悪さが込み上げる。
はあ〜〜……としばらく余韻に浸っていた男性は、不意に状態を起こして私の顔を覗き込んだ。
「気持ちよかったよ、ありがとう。」
「……」
「ふふ、また会えると嬉しいな」
ガチャッ
自分だけ満足気に微笑んだ彼は、素早く身支度を終えるなりベッドに一人残された私を気にもかけずに部屋から出て行った。
「……ぁ、ピル……」
震える手でスマホを手に取る。まだ日付の変わっていない時刻を確認して、空白の通知欄を眺める。
ただ無機質に画面に表示される待受画面には、志麻と見に行ったサザンカの花畑で撮った写真が設定されている。綺麗に咲き誇るサザンカと、それらを表示するスマホ画面に映る醜い自分。
やけに人肌恋しい夜だ。
ピロロロッ
「っ!」
突如鳴り響いた着信音に肩を震わせた私は、画面に表示された見覚えのない番号に眉を顰めるも、とりあえず出てみようとボタンを押す。
『あ、やっと出た。もしもし』
「……」
『もしもし?……おーい』
「……」
『……あれ?これAさんの番号だよね?』
優しく鼓膜を揺らした低くて落ち着いた声。一瞬で声の主に気付いた私は、全身の緊張がどっと抜けたように筋肉の強ばりが消えていくのを感じた。
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らむ(プロフ) - みさきさん» みさき様 コメントありがとうございます!更新速度は遅くなるかもしれませんが、完結までお付き合いいただけると嬉しいです✿ (2022年9月19日 12時) (レス) @page44 id: 246795febf (このIDを非表示/違反報告)
みさき - 頑張ってください! (2022年7月27日 0時) (レス) @page39 id: 734386537b (このIDを非表示/違反報告)
らむ(プロフ) - アヒルさん» アヒル様 コメントありがとうございます。楽しんでいただけて何よりでございます✿今後もどうぞ宜しくお願いいたします。 (2022年7月2日 9時) (レス) @page19 id: 246795febf (このIDを非表示/違反報告)
アヒル - らむさん、やばいです。 めちゃくちゃ好きすぎて、友達にすすめちゃいましたww これからも、頑張ってください! (2022年7月2日 6時) (レス) @page1 id: f44091270b (このIDを非表示/違反報告)
らむ(プロフ) - 翔さん» 翔様 コメントありがとうございます!当方の単なる妄想話にも関わらず、翔様に楽しんでいただけて嬉しい限りでございます。原曲もとても素敵な曲ですよね🌷今後も更新を続けてまいりますので、息抜きの際にでも是非お楽しみくださいませ。 (2022年6月30日 0時) (レス) @page11 id: 246795febf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:らむ | 作成日時:2022年6月27日 10時