検索窓
今日:7 hit、昨日:13 hit、合計:58,091 hit

Episode⒏ ページ36

.



うらたさんに別れを告げ、想像以上に近い家までの距離を徒歩で帰宅する。時計の針はお昼過ぎを指しており、空腹を訴える自身に耐えきれずに私は近くのカフェに入ることにした。


「……?」


ポツリと頬に何かが落ちてきた感触がして、その正体を指で触りながら私は空に目を向けた。今朝の天気予報とは異なる雲行き。折り畳み傘も持参していない。

灰色の雲に覆われた空には一筋の太陽すら射しておらず、その陽の光は分厚い雲の向こう側で鈍く光を放っていた。急な雨だろうか。


「はやく帰らなきゃ」


カフェに向かう予定を急遽変更して自宅に向かう。その間にもみるみる上空を支配していく灰色の雲に、どこか嫌な予感を感じながら私は足を早めた。







ざあざあと本降りを始めた雨の下でようやく自宅が見えてきた頃、向かいの公園のベンチに何やら人影を見付けた。傘も持たず雨に当たる人影に不信感を覚えると同時に心配の気持ちも抱える。


「……!センラさん?」


公園の入口と接する向かいの道路を通り過ぎようとちらりと公園のベンチに目を向けた私は、遠くからでは認識できなかった金髪の見覚えのある姿に思わず声を上げた。


「……Aちゃん、」

「どうしたの?そのままだと風邪引いちゃうよ」


慌てて駆け寄りながら鞄からハンカチを取り出す。取りあえず顔だけでも雨の下で濡れた端正な顔を拭ってやると、普段は妖艶なその瞳には虚ろな表情が漂っている。

行く先を見失ったように光を宿さない瞳には、無機質な雨の下で心配の表情を向ける私の姿が映っていた。


「……そこに私の家があるので、雨止むまではとりあえず来てください」


私の言葉に一瞬驚いたように微かに目を見開いたセンラさんは、その紅色の唇を動かして「ありがとう」と雨の音に重ねるように呟いた。



.

・→←・



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (114 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
376人がお気に入り
設定タグ:歌い手 , 浦島坂田船 , 曲パロ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

らむ(プロフ) - みさきさん» みさき様 コメントありがとうございます!更新速度は遅くなるかもしれませんが、完結までお付き合いいただけると嬉しいです✿ (2022年9月19日 12時) (レス) @page44 id: 246795febf (このIDを非表示/違反報告)
みさき - 頑張ってください! (2022年7月27日 0時) (レス) @page39 id: 734386537b (このIDを非表示/違反報告)
らむ(プロフ) - アヒルさん» アヒル様 コメントありがとうございます。楽しんでいただけて何よりでございます✿今後もどうぞ宜しくお願いいたします。 (2022年7月2日 9時) (レス) @page19 id: 246795febf (このIDを非表示/違反報告)
アヒル - らむさん、やばいです。 めちゃくちゃ好きすぎて、友達にすすめちゃいましたww これからも、頑張ってください! (2022年7月2日 6時) (レス) @page1 id: f44091270b (このIDを非表示/違反報告)
らむ(プロフ) - 翔さん» 翔様 コメントありがとうございます!当方の単なる妄想話にも関わらず、翔様に楽しんでいただけて嬉しい限りでございます。原曲もとても素敵な曲ですよね🌷今後も更新を続けてまいりますので、息抜きの際にでも是非お楽しみくださいませ。 (2022年6月30日 0時) (レス) @page11 id: 246795febf (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:らむ | 作成日時:2022年6月27日 10時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。