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「けど気持ちを叶えたいわけではないの。」
「?」
「好きな人の好きな人も、私にとって大切な人だから。そこに入り込む気はないんだ」
軽快な音楽が流れるテレビの前で、互いにボタンを操作する手を止めて適度な距離感の中で目を合わせる。予想通りとも意外とも言えるような、どこまでも喜怒哀楽を感じさせない無表情の瞳とぱちりと目が合った。
「そっか」
ただ一言、雨上がりの道にできた水溜まりに小さな雫が落ちたような透明な声で、睫毛の下に透き通る翡翠を隠したうらたさんは小さく答えた。
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ピンポーンと鳴り響いた音にスマホを眺めていた目線を上げた坂田優は、カメラで外の人物を確認するなり鍵を開けるために玄関に歩いていく。
「坂田、一旦中入ってもええ?」
「おん?ええけど……何かあるん?」
ガチャリと扉を開けると同時に視界に飛び込んだ紫色に驚きの色を隠せずにいると、その端正な顔に表情ひとつ浮かべずに尋ねてきた男性____月崎志麻に、俺は戸惑いながらも玄関に招いてやる。
「ここでええよ」
「あら、そなの?」
靴を脱がずに玄関に立ち尽くす志麻くんに、俺はぱちりと目を瞬かせる。何の連絡もせずにわざわざ訪問してきた理由は一体何なのだろう?
「なあ坂田、ホスト辞めるん?」
「……ああ、聞いたんやね」
「センラから全部聞いたで。ほんまびっくりしたわ」
志麻くんよりも身長が高い自分と立ち話の際は、どうしても彼が上目遣いをすることになる。色男として有名な志麻くんに上目遣いをされたところで、残念ながら自分はときめくような人間ではないのだが。
「_____ほんまに、ごめん。」
何を思ったのか、突然頭を下げられる。頭を下げられるようなことをされていただろうかと無言で必死に記憶を掻き集めていると、申し訳なさそうに目尻を下げる志麻くんと目が合った。
「っ……俺のせいやろ」
「は」
「今回坂田が刺されそうになった客、昔に俺を刺した客と知り合いなんやろ?」
はっと息が止まる。何と言えばいいのか分からずに思わず目を泳がせていると、そんな俺を見透かすように唇を噛んだ志麻くんは「ほんまにごめん」ともう一度小さく謝罪をした。
「これ以上他の三人を巻き込みたくないんやろ?そんなんすぐ分かるわ」
「……」
「なあ、お願いやから勝手に消えんでや。」
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らむ(プロフ) - みさきさん» みさき様 コメントありがとうございます!更新速度は遅くなるかもしれませんが、完結までお付き合いいただけると嬉しいです✿ (2022年9月19日 12時) (レス) @page44 id: 246795febf (このIDを非表示/違反報告)
みさき - 頑張ってください! (2022年7月27日 0時) (レス) @page39 id: 734386537b (このIDを非表示/違反報告)
らむ(プロフ) - アヒルさん» アヒル様 コメントありがとうございます。楽しんでいただけて何よりでございます✿今後もどうぞ宜しくお願いいたします。 (2022年7月2日 9時) (レス) @page19 id: 246795febf (このIDを非表示/違反報告)
アヒル - らむさん、やばいです。 めちゃくちゃ好きすぎて、友達にすすめちゃいましたww これからも、頑張ってください! (2022年7月2日 6時) (レス) @page1 id: f44091270b (このIDを非表示/違反報告)
らむ(プロフ) - 翔さん» 翔様 コメントありがとうございます!当方の単なる妄想話にも関わらず、翔様に楽しんでいただけて嬉しい限りでございます。原曲もとても素敵な曲ですよね🌷今後も更新を続けてまいりますので、息抜きの際にでも是非お楽しみくださいませ。 (2022年6月30日 0時) (レス) @page11 id: 246795febf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:らむ | 作成日時:2022年6月27日 10時