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「あの……うらたさん」
「ん?」
「どのような経緯で私はここに…?」
恐る恐る切り出した私の台詞に、やまだぬきを撫でていたうらたさんは手を止めて私を見つめる。万が一の可能性まで考えて慎重になる私の様子を見透かすように薄く微笑んだ彼は「昨日のこと覚えてる?」と口にした。
「昨日バーで潰れちゃったでしょ?」
「……あ」
「ホテルでもよかったんだけど、俺の家の方が近かったからここに来たの」
そういえば昨日はバーに立ち寄った気がする。扉を開けると同時に綺麗な歌声が流れてきて、その奥には翡翠の瞳を見開いて私を見つめるうらたさんがいたような。はっきりとは思い出せないが、不鮮明な記憶がぼんやりと蘇る。
「ふふ、何もしてないしされてないから大丈夫だよ」
どうやら杞憂だったようで安心するのも束の間、私をここまで運んで宿まで提供してくれたうらたさんに申し訳なさを覚える。
「……本当にごめんなさい。」
「気にしないで。頭痛はする?」
「少しだけだから大丈夫」
もしかしなくても、うらたさんは面倒見のいいタイプなのだろう。ぱたぱたと室内履きの音を立てながら移動する彼は濃緑のトレーナーに黒のズボンというラフな格好をしていた。
「今日この後は暇?」
「うん。用事も特にないよ」
「ならここで一緒にゲームしない?」
へっ?と声が漏れる。何やら嬉しげに目を細めてリモコンを取り出しているうらたさんからは、まさにワクワクと効果音を付けられそうな雰囲気が漂っていた。
「予定があるなら無理強いはしないけど」
「ううん、やってみたいな。ゲーム」
「お、ほんと?」
肯定の返事にぱっと顔を明るくさせた彼は、沢山のボタンが付属された操作機のようなものを私に渡してきた。テレビの大画面いっぱいにゲーム画面が広がる。
「肩慣らしにこれから始めるか」
誰もが一度は見たことがあるであろう某カーゲーム。あっという間にスタート画面まで操作したうらたさんを真似て私もキャラ選択を終える。……あ、この子ヤンキーみたいで可愛い。
「言っておくけど、手加減はしないからね」
「ふふ、了解」
3、2、1とカウントされる音に合わせて、私とうらたさんは同時に勢いよくエンジンをかけた。
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らむ(プロフ) - みさきさん» みさき様 コメントありがとうございます!更新速度は遅くなるかもしれませんが、完結までお付き合いいただけると嬉しいです✿ (2022年9月19日 12時) (レス) @page44 id: 246795febf (このIDを非表示/違反報告)
みさき - 頑張ってください! (2022年7月27日 0時) (レス) @page39 id: 734386537b (このIDを非表示/違反報告)
らむ(プロフ) - アヒルさん» アヒル様 コメントありがとうございます。楽しんでいただけて何よりでございます✿今後もどうぞ宜しくお願いいたします。 (2022年7月2日 9時) (レス) @page19 id: 246795febf (このIDを非表示/違反報告)
アヒル - らむさん、やばいです。 めちゃくちゃ好きすぎて、友達にすすめちゃいましたww これからも、頑張ってください! (2022年7月2日 6時) (レス) @page1 id: f44091270b (このIDを非表示/違反報告)
らむ(プロフ) - 翔さん» 翔様 コメントありがとうございます!当方の単なる妄想話にも関わらず、翔様に楽しんでいただけて嬉しい限りでございます。原曲もとても素敵な曲ですよね🌷今後も更新を続けてまいりますので、息抜きの際にでも是非お楽しみくださいませ。 (2022年6月30日 0時) (レス) @page11 id: 246795febf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:らむ | 作成日時:2022年6月27日 10時