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騒ぎが一段落したとは言え、室内にはざわざわとさざ波が広がるように小声が止むことはない。怯えたように肩を寄せる女性達に声をかけるホスト達もどうやら現状に困惑しているようだった。
「大変ご迷惑をおかけいたしました」
管理長と思われる男性がその場にやってくるなり深く頭を下げた。ボーイやホストも頭を下げてお客様に謝るという状況にお客様も困惑する。
「先程の女性は出禁にいたしまして、今後の入店は不可能ですので、どうぞご安心くださいませ。」
他にも何言か謝罪の言葉を述べた男性は、もう一度深く頭を下げてからその場を去った。いつの間にかシーンと静まり返っていた室内には、男性が去ると同時に再び話し声や食器の音が聞こえはじめる。
「Aちゃん」
「!」
名前を呼ばれて目線を向けた先では、微笑を浮かべるセンラさんが手を振りながら近付いてきていた。その姿に私も手を振り返して「こんばんは。」と声をかけた。
「さっき本当にすごかった。どうして女性を止められたの?」
「ああ、さっきのやつ?一体何事かとたまたま部屋出ようとしたら、女性が向かってきたから止めただけやで」
「普通そんな反射神経ないよ。すごいなぁ」
理性を失って凶器を片手に走る女性を、いとも簡単に止めてしまうセンラさんの反射神経に脱帽する。それを鼻にかけるわけでもなく当たり前のように告げたセンラさんは、何かを思い出したのかぱっと話を逸らす。
「今日はどうしたん?」
「そうだ。知っていたらで構わないんだけど……薄ピンク色の腕時計に見に覚えない?」
「………ああ、」
にこりと綺麗に微笑んだセンラさん。その笑顔の奥に何か秘密が隠されている。私はごくりと小さく唾を飲みながら彼の目をじっと見つめた。
「俺持ってんで」
ぱっと顔を上げて期待の目を向けた私に、センラさんはどこまでも完璧な笑顔を向けて「今は俺の家やけど」と悪魔の言葉を口にする。
「俺の家ここから近いけど……この後来る?」
「!」
「ふふっ、腕時計渡すだけやから何もせんよ」
一歩身を引いた私に吹き出したセンラさんは笑いを堪えるように口元を覆うも、ぷるぷると震える肩が何ひとつ隠されていない。揶揄われたと気付いて拗ねた私はぷいっとそっぽを向き、そんな私を笑い混じりの声で宥める目の前の彼。
「んふふ、可愛ええなぁ」
その言葉を耳にした瞬間、とんっと小指でつつかれたように心臓が小さく跳ねた。
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らむ(プロフ) - みさきさん» みさき様 コメントありがとうございます!更新速度は遅くなるかもしれませんが、完結までお付き合いいただけると嬉しいです✿ (2022年9月19日 12時) (レス) @page44 id: 246795febf (このIDを非表示/違反報告)
みさき - 頑張ってください! (2022年7月27日 0時) (レス) @page39 id: 734386537b (このIDを非表示/違反報告)
らむ(プロフ) - アヒルさん» アヒル様 コメントありがとうございます。楽しんでいただけて何よりでございます✿今後もどうぞ宜しくお願いいたします。 (2022年7月2日 9時) (レス) @page19 id: 246795febf (このIDを非表示/違反報告)
アヒル - らむさん、やばいです。 めちゃくちゃ好きすぎて、友達にすすめちゃいましたww これからも、頑張ってください! (2022年7月2日 6時) (レス) @page1 id: f44091270b (このIDを非表示/違反報告)
らむ(プロフ) - 翔さん» 翔様 コメントありがとうございます!当方の単なる妄想話にも関わらず、翔様に楽しんでいただけて嬉しい限りでございます。原曲もとても素敵な曲ですよね🌷今後も更新を続けてまいりますので、息抜きの際にでも是非お楽しみくださいませ。 (2022年6月30日 0時) (レス) @page11 id: 246795febf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:らむ | 作成日時:2022年6月27日 10時