Episode⒊ ページ12
.
連絡先に追加された新しい名前を眺めながら、センラさんの仕事終わりを待つ。浦田渉と表記されている名前のアイコンには可愛らしいたぬきが設定されていた。
「Aちゃん、お待たせ」
可愛いたぬきのアイコンに頬を緩めていると、扉の開閉音と共に中性的な声が聞こえてきた。声の主を判断するまでもなく「お疲れさま。」と声をかけた私ににこりと優しく微笑んだセンラさん。
「流石は眠らない街ね」
「ほんまに。……人間の欲が詰まった街やで。」
何かを小さく呟いたセンラさんの言葉を聞き取ることはできない。首を傾げた私と目を合わせた目の前の彼は、美しい笑顔の仮面の裏に本音を仕舞い込んだ。
「ねえ、センラさん」
「ん?」
「近くにお気に入りのバーがあるの。行かない?」
試しの言葉だった。ホスト営業で既にお酒を沢山飲んでいるはずの彼は、私の誘いに何という返答を返すのだろうか?楽しさを覚えながらセンラさんの表情を見つめていると、彼は深い笑みを浮かべながら一言答える。
「ええよ」
____ああ。何と完璧な返答。私の待ち望んでいた一言を意図も容易く口にしたセンラさんは、私の考えをお見通しのようににこにこと綺麗な笑みを浮かべた。
▼
ぱさりと床に落ちた下着には見向きもせず、熱の篭ったその瞳は私を見つめている。それだけで何かが満たされているように私の心がぽかぽかと温かくなる。
「ねえ、センラさん」
肌を撫でる柔らかな唇の感触に息を漏らしながら、眼下に広がる艶やかな金髪に指を通した。私の呼びかけに閉じていた目蓋を開いて一瞬目線を上に向けたセンラさんに、私はゆっくりと言葉を続ける。
「愛ってなんだと思う?」
ぴたりと彼の手が一瞬止まる。それも束の間で再び私の首筋にふにゃりと唇を落としたセンラさんは、そのまま面を上げて「……愛、かぁ」と小さく呟いた。
「人の心を動かすもの、何でも愛なんちゃう?」
無機質に答えたセンラさんの言葉に本音の色は一切込められていない。けど適当に答えたようにも聞こえない。つまり彼の箱庭の中で予め用意されていた回答だったのだろう。
「ふぅん」
つまらなさを覚えて私の顔から表情が抜ける。上体を起き上がらせた私はそのまま床に落ちていた下着や服を身に纏う。
「ふふっ、……帰るん?」
分かってるくせに。そんな意を込めて向けた私の睨みに一切心動かされた様子もなく、センラさんは一瞬面白そうに笑みを深めた。
.
376人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
らむ(プロフ) - みさきさん» みさき様 コメントありがとうございます!更新速度は遅くなるかもしれませんが、完結までお付き合いいただけると嬉しいです✿ (2022年9月19日 12時) (レス) @page44 id: 246795febf (このIDを非表示/違反報告)
みさき - 頑張ってください! (2022年7月27日 0時) (レス) @page39 id: 734386537b (このIDを非表示/違反報告)
らむ(プロフ) - アヒルさん» アヒル様 コメントありがとうございます。楽しんでいただけて何よりでございます✿今後もどうぞ宜しくお願いいたします。 (2022年7月2日 9時) (レス) @page19 id: 246795febf (このIDを非表示/違反報告)
アヒル - らむさん、やばいです。 めちゃくちゃ好きすぎて、友達にすすめちゃいましたww これからも、頑張ってください! (2022年7月2日 6時) (レス) @page1 id: f44091270b (このIDを非表示/違反報告)
らむ(プロフ) - 翔さん» 翔様 コメントありがとうございます!当方の単なる妄想話にも関わらず、翔様に楽しんでいただけて嬉しい限りでございます。原曲もとても素敵な曲ですよね🌷今後も更新を続けてまいりますので、息抜きの際にでも是非お楽しみくださいませ。 (2022年6月30日 0時) (レス) @page11 id: 246795febf (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:らむ | 作成日時:2022年6月27日 10時