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このような男女の揉め事もこの街では日常茶飯事。それを分かっているはずなのに、どこまでも無関心に包まれる街中に、つい反射的に足が動いてしまっていた。


「大丈夫ですか?」


鞄から取り出したハンカチを差し出しながら、路地に座り込む男性と目を合わせるようにしゃがみこむ。街灯で照らされた暗闇の中でさえ、その頬に咲いた紅葉に思わず同情した。


「…!」


私の言葉にぼんやりと顔を上げた男性と目が合い、私はその瞬間に息を飲んだ。どこまでも澄んだ翡翠の瞳が戸惑うように瞬き、長い睫毛がぱっちりとした目を覆うようにくるりと上向きにカールしている。


「えっ、と」


まるで人形のような男性だった。目を見開いて真っ直ぐに男性を見つめる私に困ったように眉を下げた彼は、指輪ひとつ嵌められていない綺麗な手をハンカチを持つ私の手に重ねた。


「……お心遣いありがとうございます。僕は問題ないので心配要りませんよ」


センター分けにされた茶髪の下で、翡翠の瞳を目蓋の奥に隠した男性はふわりと儚げに微笑んだ。掴んだら消えてしまいそうな儚さに私は思わず一瞬手を引く。


「お姉さんこそ、この時間にこんなところを歩いていては危ないです」

「……」

「……あの?」


何も言葉を発しない私に困ったような声を出した男性に「……あの、違ったら申し訳ないんですけど」と私は前置きをしてから口を開いた。


「浦田渉くん…?」

「!」


はっと目を見開いた男性____浦田渉は、その翡翠を驚きの色で染めた。ただただ驚いたように私を見つめる目の前の見覚えのある彼は、高校時代の同級生。


「もしかして……Aさん?」


おずおずと尋ねた彼に私が頷くと「まじか…」と素の声でうらたさんが呟いた。俯かれた目蓋を覆う長い睫毛は影を落とし、骨格の堀の深さを演出している。

ふと時計を見ると、センラさんと約束した時間に近付いている時間が指されていた。私は多少の名残惜しさを感じながらも「……うらたくん」と呼びかけた。


「ごめんね、私実はこの後に用事があって」


私の言葉に驚いたように目を見開いた彼は、申し訳なさそうにこくりと頷いた。私はその場を立ち上がり小さく手を振りながら場を去ろうとする。


「あのっ」

「?」

「よければ連絡先、訊いてもいい?」


可愛らしい質問に「もちろん」と私は笑顔を零した。



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らむ(プロフ) - みさきさん» みさき様 コメントありがとうございます!更新速度は遅くなるかもしれませんが、完結までお付き合いいただけると嬉しいです✿ (2022年9月19日 12時) (レス) @page44 id: 246795febf (このIDを非表示/違反報告)
みさき - 頑張ってください! (2022年7月27日 0時) (レス) @page39 id: 734386537b (このIDを非表示/違反報告)
らむ(プロフ) - アヒルさん» アヒル様 コメントありがとうございます。楽しんでいただけて何よりでございます✿今後もどうぞ宜しくお願いいたします。 (2022年7月2日 9時) (レス) @page19 id: 246795febf (このIDを非表示/違反報告)
アヒル - らむさん、やばいです。 めちゃくちゃ好きすぎて、友達にすすめちゃいましたww これからも、頑張ってください! (2022年7月2日 6時) (レス) @page1 id: f44091270b (このIDを非表示/違反報告)
らむ(プロフ) - 翔さん» 翔様 コメントありがとうございます!当方の単なる妄想話にも関わらず、翔様に楽しんでいただけて嬉しい限りでございます。原曲もとても素敵な曲ですよね🌷今後も更新を続けてまいりますので、息抜きの際にでも是非お楽しみくださいませ。 (2022年6月30日 0時) (レス) @page11 id: 246795febf (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:らむ | 作成日時:2022年6月27日 10時

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