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坂田くんは桜に似ている。
四月に見事な桃色で景色を覆い尽くし、その美しさに目を見張ってる間に、気が付くとひらりひらりと花弁を儚く散らして空を舞うように落ちていく。
夏には太陽のような葉桜が道中で咲き誇る。水溜まりに薄紅色の花弁が浮いているすぐ傍で、力強い幹を空に伸ばすように、人の思い出と共に枯れていく。
坂田くんは、桜の花弁のようだ。
夏が来ても尚、思い出の欠片を残すように水溜まりに綺麗に浮かび上がる一枚の花弁。時の流れに残された思い出をひとつひとつ集めていくように、新緑の下で儚くも力強さを感じさせる薄紅色。
「……うん。」
端正な顔立ちの坂田くんとネオンライトが、混ざり合うように溶けていく。ひらひらと舞い落ちる花弁が、雨上がりの水溜まりに螺旋を描いて浮かび上がる。
私の声に微かに目を見開いた坂田くんは、少しだけ哀しそうに目尻を下げた。
「そっか」
たったの二文字と三文字で、会話が終わる。
どこまでに真っ直ぐに見つめてくる坂田くんに居心地の悪さを覚えて目を逸らす。常に彼の首元に付けられているチョーカーの赤い雫が暗闇の中でコロンと揺れる。
「私はあっち方面だから、ここでお別れだね」
「……うん」
「じゃあね。おやすみ」
無理やり会話を終わらせた私は、小さく俯いた坂田くんから発せられた小さな二文字に言葉を重ねて、そのままその場を離れようと背を向けた。
突き当たりを左側に曲がって自宅方面に歩き出す。背後からは靴音ひとつ聞こえない。
「____まって！」
突如として響いた声に足を止める。驚いて目を見開く私の右手がバッと背後から掴まれる。反射的に体の向きを変えた私の目の前には、少しだけ息を切らした坂田くんの姿がある。
「ごめん。やっぱ諦められへん」
「！」
「好き。大好きやで。Aちゃん」
必死さが伝わる坂田くんの声は、走って私を追いかけたせいか少しだけ枯れていた。どこまでも真っ直ぐで真剣な瞳を向ける坂田くんの言葉が嘘のものとは思えない。
先程まではガヤガヤと騒がしかった周囲は、今は水を打ったように静けさが広がっている。見事な満月に照らされた坂田くんは、思わず息を飲んでしまうほど綺麗だった。
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作者名：らむ | 作成日時：2022年9月27日 10時
