俺の恩を。 ページ7
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「まあ確かに、Aを迎えに来たのは事実だけど、嫁じゃないから」
──あくまで”まだ”だけどね。まだ。
誰にも聞かれてはいけない独り言を頭の中で漏らしていた赤葦は、不意に弓道場から男の声が聞こえた。しかし、周りはそれに反応しない。
──気のせい、か……?いや、でも……
赤葦はなんだか妙に高まる気持ちが抑えられない。
しかし次の瞬間、疑惑は確信に変わった。
「だ、誰かっ……来て、くださ……!!」
一人の一年の女子部員が慌てたように弓道場から飛び出して来たのだ。それに対し、赤葦は柄にもなく興奮しだす。赤葦の脳内からドーパミンが際限なく溢れ出てくる。
──これ、は……!!
赤葦の足は考える前に、ごく自然と弓道場に向かって動いていた。それをきっかけに、女子部員の訴えに驚いていた他の部員たちも我にかえり、赤葦に続く。
靴を乱暴に脱ぎ捨て、赤葦はその目に森の丸くなった背中を捉える。森は誰かの両手を左手で束ねていた。赤葦から押さえつけられている人物の顔は見えなかったが、少女だと判断を下すのは容易だった。
──あの手の小ささはAだろ……!
対して広くない弓道場を背の高い赤葦が全力で走ればあっという間にその手は森の肩を触れた。
そこまで距離を詰めれば、立っている赤葦からは森の奥にいる人物──少女の表情を見て取れる。閉ざされたその瞳からは、一筋の涙が今まさに流れ落ちるところだった。
少女の涙は、赤葦の怒りの燃料だ。
森の体制から想像はついていたが、実際に少女の涙を見た赤葦は急にカッと火がついたように体の奥底が熱くなる感覚がした。それは底の無い深い深い怒り。
「何やってんだお前!!」
赤葦を筆頭に、数人の男子部員が森を少女から引き剥がす。
「おいっ!離せよ!!」
「離すわけねえだろ!!」
「おい落ち着けって!!」
暴れる森を羽交い締めにし、男子部員達で押さえつける。
「A、大丈夫!?何もされてない!?」
「……け、ぃじ、……ぅ、ああぁぁ……!!」
赤葦の顔を見た少女は、ようやく恐怖心から開放された。流れる涙は少女を優しく抱きしめる赤葦の肩を濡らす。
──折角Aの特別になれたっていう勘違い
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ライア(プロフ) - あああああヤンデレぷまいーーーーーーーーーー(^q^) (2019年7月11日 0時) (レス) id: 22a2268380 (このIDを非表示/違反報告)
たなぱし(プロフ) - ぴよ曜さん» ぴよ曜さん、コメントありがとうございます!なんと、この小説で赤葦推しを生んでしまうとは…!!理想だなんて言ってもらえて光栄です!最後までお読み下さりありがとうございました(*´ー`*) (2017年8月26日 0時) (レス) id: 47f42923ee (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ曜 - この小説のおかげで、赤葦推しになりました!(笑)この小説の赤葦は、私の理想です!!完結おめでとうございます!&更新お疲れ様でした!!! (2017年8月25日 11時) (レス) id: 9123716162 (このIDを非表示/違反報告)
たなぱし(プロフ) - 審神者代理さん» 審神者代理さん、コメントありがとうございます!好みに合えば幸いです!もう赤葦さんの溢れる何でも出来る感に頼りきった作品となってしまいました笑まさにスパダリやあ…(*´∇`*) (2017年8月21日 21時) (レス) id: 47f42923ee (このIDを非表示/違反報告)
審神者代理 - 完結おめでとうございます!やっぱりここの赤葦さんは好みだなぁ…赤葦さんは何でも出来る感がすごいありますよね( `-ω-´) (2017年8月21日 21時) (レス) id: d1c49bf55e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:たなぱし | 作成日時:2017年5月28日 1時