畢生探偵事務所〜人生のさがしもの、見つけます〜【 utit 】 (ページ1)

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明かりのない部屋には窓からの僅かな光のみが差し込み、薄暗い部屋の形を仄かに見せる。そこから僅かに見える扉の前に掛かっている看板には “ 畢生探偵事務所 ” と書かれている。

窓から見える桜が散り、桜の枝には青々とした若葉が芽生え始めた小暑の昼下がり。

もう浮世は梅雨明けも早々に終わり、夏が始まったらしい。

… らしいというのは、ここは浮世ではないから定かではないのだ。
ここは霊体のお客様限定の探偵事務所。探偵事務所と言っても、お客様が過ごしてきた人生の中で無くしてしまった “ さがしもの ” を探し、成仏または現世に帰還させるところ。

そして僕達のような神の側仕えである精霊は例外を除き、この空間 … “ 畢生探偵事務所 ” から出ることは出来ない。そのため、たまに来る霊体のお客様に浮世のことを少し教えてもらうのだ。

いつもはお客様があまり来ないから少し暇なのだが、今日は珍しくお客様が来られたようで。

今回のお客様は茶髪の青年。ピアスを着けており、それには三日月の飾りが着いていてお洒落だ。

「初めまして、お客様。」

「あの … 此処って、何処ですか」

「此処は畢生探偵事務所。そして僕はここの職員である、精霊の “ まふまふ ” と申します。以後お見知り置きを。」

僕がそう言えば、男性はは？と言った顔で此方を見つめる。
… 説明が足りなかったのでしょうか、なんて思っていると後ろから声が聞こえてきた。

「 ───まふまふ、そんなんじゃお客様が分からないでしょ。」

「あ、 “ そらる ” さん！」

「えっ、誰 … 」

奥から出てきたのは濡鴉色の髪にサファイアブルーの瞳を持ち、肌が雪のように真っ白な艶やか美人さん … もとい、主君であるそらるさん。

彼が微笑めば花は咲き、ひとたび歩くだけでその場の空気は浄化される、だなんて天界でも言われる程の美貌。そして触れてしまうだけで崩れてしまいそうな儚さも持ち合わせており、其れは彼をまるで深窓の令嬢のようにも感じさせる。

「初めまして。此処は冥界と現世の狭間。理想と現実、幻と現。その何方でもない空間だよ」

「 … 俺は死んだんですか」

「さあどうだろう。其れは君の “ さがしもの ” を見つけないと分からないかな」

そらるさんはそう彼に話し、あとは頼んだよ、なんて言って奥に戻っていく。
… さて、僕の仕事ですね。

貴方はどんな生を歩んできたのですか？
… 人生のさがしもの、見つけます。