おはよう【牛島若利】 (ページ5)

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もしかして、私が今泉Aだってこと知ってる？

……なんて、もし彼が知らなかったら恥ずかしくて訊けない。

そんな自爆行為できない。

｢はあ……｣

｢うわあ、溜息つかないでよ。幸せ逃げるよ？｣

気づけば教室の自分の席についてる。

私が悩んでるとあっという間に彼は｢じゃあ｣と言って去っていった。

実際彼は私が誰なのか知ってるのだろうか？

知ってるようにも知らないようにも見える……。

何を考えているのか分からない。

掴みどころがない。

｢ねえ、由利｣

｢なに？｣

｢彼は……牛島くん？は、私が誰なのか知ってるのかな？｣

｢知ってるんじゃない？｣

悩むことなくあっさりと言われる。

普通少しは悩むものじゃないの？

｢な、なんでそう思うの？｣

｢だって彼、部員全員の名前と欠点言えるって噂だもん。気になる人の名前くらい知ってるでしょ｣

気になってる人？！

私、いつ彼に気になられてるって言いました？！

でも、探してるってことは気になる人ではあるのか……。

勝手に考えてなんだけど、恥ずかしい……。

｢A顔真っ赤～｣

ニヤニヤと笑みを浮かべられ腹立たしい。

腹立たしい、というより恥ずかしいだけなんだけど。

｢うっさい！｣

顔を逸らすも彼女のニヤニヤ顔は変わらない。

見えないから変わってないのかなんてはっきり分からないけど、声からしてニヤニヤしてるのがわかる。

｢Aにもついに春が来たか～｣

…………春、か。

｢Aは牛島のこと好きなの？｣

｢違う｣

彼はただ、私の絵を見て褒めてくれる。

ただそれだけ。

｢じゃあ、気になるの？｣

｢……違う｣

嘘、気になる。

自分が一生懸命描いた作品を褒めてくれる人、自分のことを探してる人を気にならないわけがない。

そんな私の気持ちを見透かしたかのように、彼女は笑みを深め｢そっかそっか～｣という。

いや、きっと私の気持ちを彼女は分かってるんだ。

見透かしてるんだ。

その証拠に彼女はこんなことを言ってきた。

｢話しなら聞くから、じゃあ頑張ってね｣

タイミングよく予鈴が鳴り、彼女は自分の席へと戻っていった。

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