おはよう【牛島若利】 (ページ12)

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スケッチブックにある程度描いたとき、笛の音で部員の活動が終わった。

部員の多くが汗にまみれタオルで処理をする。

｢どうだ。描けそうか？｣

気がつくと彼が上から覗き込んでいた。

｢ひゃあっ！｣

咄嗟にスケッチブックを閉じる。

描きやすいポーズ、ポスターの絵にしたら良さそうなポーズをしてる部員を描いていたが、そのほとんどが彼だ。

下心満載のそのラフ画を彼に見せることは出来ない。

｢い、家に帰ってからじっくり考えてみる｣

こんなの見られたらさすがに引かれてしまう。

｢わ～！さすが美術部！上手いねー！｣

いつの間にやら彼とは別サイドに赤髪のつんつん頭が立っている。

しかも、私が抱きしめているはずのスケッチブックを手にしている。

｢ほとんど若利くんに見えるー。いや、絶対若利くんだね！｣

｢ちょっ！返して！｣

もう、顔から火が出そう！

なかなか返してくれないかと思ったが、彼は意図も簡単にはい、と言って返してくれた。

｢じゃあ、若利くんそろそろ戻ろ～｣

｢ああ｣

なんなんだ。今の嵐のようなものは。

気づいたら隣に彼がいて、気づいたら逆サイドに変なやつがいて……。

今もまたそいつが隣に…………。

へ？

｢な！？｣

｢気づくの遅いな～｣

｢な、な、なな……何？｣

ニタニタとした表情が怖い。

｢君も、若利くん好きなの？｣

｢……へ？｣

なんでわかったの？

っていうか、もって何？

こいつも彼のことが好きなの？

｢わかりやすいなー。まさか他にもいたなんて｣

私は口をパクパクさせ阿呆みたいな顔のまま何も言えない。

彼はそんなことは全く気にせずに話し続ける。

｢君、若利くんの何？わざわざ君にポスターを依頼するあたり、若利くんは少しは君に興味があるみたいだけど、クラスメイト？友だち？まさか恋人？｣

｢た、ただの知り合い｣

｢ふーん。ただの知り合いかあ。納得！｣

なんか失礼だこいつ。

｢でも若利くんは君と凛桜ちゃんどっちを選ぶんだろうね～。俺だったら絶対凛桜ちゃんだな～｣

リオちゃん？

｢知らないの？若利くんに猛アピールしてる超可愛い子！｣

超可愛い子。

女子には興味がないからわからないけど、きっと由利が言ってたあの子だろう。

｢まあ、勝ち目のない勝負だろうけど頑張って～｣

手をパタパタと振りながら妖怪野郎は去っていった。

勝ち目のない、勝負…………。

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