ただ・・・好きなだけ。 (ページ1)

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一十木音也ページ1

テレビ越しに見る君はいつの間にか、とても有名なスターとなっていた。

春。私の通っていた学園。『早乙女学園』で、先生に頼まれていたプリントを派手にぶちまけた

ことがある。

３クラス分もあるプリントを、廊下の隅々まで広がっていたプリントを、私は一人で黙々と集め

始めた。何分くらいたっただろうか。やっと少しずつプリントたちがまとまってきたとき、

私の手ではない誰かの別の手が突然あらわれて、その手を追っていくとそこには同じクラスの

一十木君の顔があった。それを見た瞬間、つい私の口から「えっ」という、いかにもはてなマーク

が付きそうな声が、私の口から飛び出した。すると突然君は、手を止めて私と視線を合わして

とても優しい声で、

「手伝うよ。」

と、言ってくれた。

それを聞いた瞬間、私は何か深い穴に落ちた気がした。でもそれは、暗くて深くて怖い穴では

なくて。とても暖かくて、でも時折胸が締め付けられる。だけど、すごくすごくすごく甘くて優

しい気持ちになる。

これが恋何だと、私は改めて知った。

でも、私はこの思いを君に伝えられないままこの思いを、自分の中にある大きな箱の中に入れて、

隠した。

それから何年か経ち私は今、夢だったアイドルではなくそのアイドルを支える『マネージャー』

というものになった。

そんな時、偶然にもテレビ局の廊下で君を見かけた。どうせ私のことは覚えていないだろうし、

私だって忘れられていて傷つきたくはなかったから、まるであったこともないそこらへんの人…

というような感じで、君の隣を通り過ぎようとした。だけど、そんなことはできなかった。

「A！」

そう。君が私の名前を読んだから。その瞬間私のずーっと隠しつづけていた思いが、

――――破裂して、飛び出したような気がした――――