# ページ44
強風とも言えないし弱風とも言えない、曖昧な風が私の肌を刺激しブルりと震えた。
私の瞳に映る視界は何処かおぼつかなく、ゆらゆらと水が揺蕩うように、私もゆらゆらと揺れる。
まるで池に体を預けているようだ。
「っAちゃん!?」
「おいっA!」
ビックリしたような声。心配したような声。
二つともとても聞き覚えのある声を耳に私の意識は深く深くへと沈んでいった。
*
ガチャリとドアが開かれるような音。トントンと規則正しい足音。
生活感が溢れる中、私は目を覚ました。ひんやりとした何かが額に感じる。
「お。目ェ覚めたか」
毎日のように、聞いている友人の声。
「…中也…」
自身の声は、蚊が泣くよりもか細く、とても弱弱しくいつも活発であった私の声とは
到底思えない。自分でも驚愕したのと同時に、嗚呼、太宰さんが居なくなってから
ここまで弱っていたのだと今、理解した。
「おっと。まだ寝てろ」
上半身を起こそうとしている私を片手で制止して、ほかほかと良い匂いが漂う粥を
机の上に置いた。
途中まで起こしていた上半身をぼふんっと布団の中に沈ませる。
爽やかな、中也がよくしている香水の匂いが鼻をくすぐって、つい笑みが零れた。
「卵粥を作ったが食べれるか?」
普段の中也からはとても想像できない、心配そうな顔で私の顔を覗いてきた。
中也は布団の中に沈んでいる私の額に当ててある布を取り水の中に付け絞りもう一度私の
頭の上に置いた。もう日が暮れ、寒いというのに。嗚呼、冷たいだろう。証拠に手が
見ているこっちまで寒くなるほど赤くなっている。
「…食べる」
こくりと私が頷くと、額から布を取り、私の背中に手を添え私を起こすような形になった。
「ほら。熱いから気を付けて食べろよ」
中也はそう言うもの、私が火傷をしない様にと卵粥に息をかけて人肌程の、ぬくとい
温度になってから私の口へとゆっくりと零れない様にと運んでくれた。
「…美味しい…」
私の心は、吹雪の中に一人ぽつんと残されているようで。
右を見ても左を見ても前を見ても後ろを見ても全面真っ白で。
中也が作ってくれた卵粥は、太宰さんが居なくなって世界が色褪せていってしまったこの
世界に悲しいほどに響き渡った。
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嘘吐き姫(プロフ) - 中也さん、今度は戦国武将ですか…敵がバッサバッサですね(笑) 名前っぽいペンネームも素敵ですけど、双黒尊い…って、率直&ドストレートで、私は結構好きです!名前変わっても双黒尊い…さんはM・T(マイ・天使)です(( (2019年11月8日 19時) (レス) id: 346988f6d0 (このIDを非表示/違反報告)
双黒尊い…(プロフ) - リアさん» それは大変失礼いたしました。私がこのCSSを気に入っているという諸事情であまり変えたくないのです。本当に申し訳ございません。もうお知りになっているのかはわかりませんけれど右側にあるCSSという所を押せば、普通のに切り替わりますよ。 (2019年11月8日 16時) (レス) id: f17b921f9b (このIDを非表示/違反報告)
リア - あの小説のほうはすごく面白いのですが背景が桜の花びら、字が白なので大変読みにくいです壁紙を変えてください (2019年11月8日 16時) (レス) id: fa2d4be8dc (このIDを非表示/違反報告)
嘘吐き姫(プロフ) - 双黒尊い…さん» リクエストください(笑) (一つ前のコメント、レスつけそびれちゃいました、すみません!) (2019年11月6日 22時) (レス) id: 346988f6d0 (このIDを非表示/違反報告)
嘘吐き姫(プロフ) - リクエスト消化、ありがとうございました!びびりみたいなコミュ症みたいな夢主ちゃんめっちゃ可愛かったです(眼力) あと、「俺ってそんなに怖いのか」っていう中也さんの心の叫びにちょっと笑っちゃいました(笑)リクエスト停止を解消したら、是非私の作品にも (2019年11月6日 22時) (レス) id: 346988f6d0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:双黒尊い… | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/kouki69632/
作成日時:2019年10月22日 19時