天下の双黒様だって彼女様には敵わない 【双黒/短編集】

#夜明けと蛍/双黒/太宰治 ページ42

夜明けと蛍というボカロ曲をお借りしました。

―――

力なく、淡く綺麗に光る満月。
上を見上げれば、黒い黒い吸い込まれそうなほどに綺麗な夜空。
夜の川で蛍が光るように光っている星。

「…何処にいるんですか」

ふと零れた言葉。
こんなに綺麗な夜空でさえ、独りぼっちの私を嘲笑うように光る星。
だがそれすらも美しいと思ってしまう私は異常であろうか。
すっとまるで星を撫でるように手を天に掲げるようにかざす。
手と手の隙間から満月が放つ弱弱しい光が漏れてくる。
遠い遠い、何千万キロと離れている星がなぜか滲んで見えた。

*

ふらりふらりと夜空の下を歩いていればふらりと何事もないような顔をして
やぁAちゃん、だなんて。
片手をあげてさ。にこりとその胡麻臭い笑みで笑ってくださいよ。太宰さん。
走って走って走って。探して、探すんだ。貴方を。けど何処にもいないんだよ。
分かってる。見つからない事くらい。時間の無駄な事くらい。けど、貴方に会いたい。
どうしようもなく愛しい。ドジでバカな私に、泣き虫な私に声をかけてくださいよ。
また泣いてるねって。

「…」

見つからない。
何がしたいだとか、何が食べたいだとか、何処に行きたいだとか。
嗚呼、貴方がいないと私は何も気力が起きないんですね。
急いだふりをして、手帳を見て、ほら、私は忙しいですよって仕事してますよって。
腕に力が入らない。重力に従うように、俯いている私から何かが滴り落ちた。

会いたい。嗚呼、どうしようもなく会いたい。
どれだけ叫んだって、どれだけ走ったって、どれだけ呼んだって。
貴方は一生現れない。私の前に現れない。
太宰さん。貴方は遂に死んでしまったんですか？一回も顔を出さないで。
せめてメールでも手紙でもいいから送ってくださいよ。
ほら。貴方のメールアドレス。私はまだ消してないですよ。
良かったですね。貴方前から死にたがっていたじゃないですか。
皮肉っぽく呟く。嗚呼…心底、太宰さんの死を祝えない私は余程クズなのだろう。

鈍い音。痛む膝。赤い何か。
綺麗な、綺麗な赤い赤い、苺のように透き通っている、純粋な赤。
けど、赤黒く見える。私からすると。
膝を抱えて、蹲った。痛くて、痛くて痛くて。けどそれよりも心が痛かった。

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