天下の双黒様だって彼女様には敵わない 【双黒/短編集】

# ページ28

「はっ…こいつバケモンかよ…」

鼻で笑いながら、立ち上がっている脳無の方を向いた。
体に傷は受けていても、一切血なんか流していない。ケロリとしている。
化け物、の言葉がぴったりだった。

「残念だったな、脳無は攻撃を受ければ受ける程強くなっていくんだ！！」

けらけら可笑しそうに狂ったように笑う死柄木。
嗚呼、最悪だ。オールマイトもいない。こんな化け物、倒せる奴なんかいやしない。

男は口元についた血を拭いとる。
中也、先程の男のけらけらとした表情は何処へ行ったのか、真剣な表情。

「残る方法はただ一つだ」

男と男の目線がパチリ交わった。
互いに一切言葉を発しない。

「…はぁ…」

男はまるで了承したように溜息を吐いた。
ぎろりと男の方を睨むと、コツコツ、と歩き出す。

「汝、陰鬱なる汚濁の許容よ」

するりと外される黒い手袋。
男のしている帽子がひらりと宙に舞う。

「更めて我を目覚ますことなかれ」

男の雰囲気、全てが何もかも変わる。
男を赤い何かで囲った。

強烈な、風が吹く。
男が踏み出したところは圧でベコリとへこんでいる。

「っは…」

何なんだ、あの男は。
我を失って、脳無を赤い球で攻撃していく。
無理だろう、思ったが脳無の体は着々と傷が増えて言っている。
なぜ、脳無は強くなっていない。

「気になるかい？なぜ強くなっていないのか」

いつのまに移動したのか、隣には治とよばれた男。
皆、一斉に男の方を向いた。

「あ…A先生の彼氏の…」
「嗚呼、言っていなかったね。私の名前は太宰。太宰治だ」

にこりと笑う、太宰さんに嗚呼、確かに太宰さんを好きになるのも分かる気がすると思った。
くすくすと、だけどAが先生だなんてねーとぼやいた。

「…脳無がなぜ中也の攻撃を受けて強くなっていないのかというとね、中也の攻撃一つ一つ
が重すぎるからそれを体が受け入れれないんだよ。自然と拒否してしまって
強くなっていないんだ」

太宰さんの視線の先には、あの男。
男は、宙に浮かんだまま、大きな赤い球を手に持った。
放たれる赤い球。大きな地響きと共に、砂埃が舞う。

砂埃が晴れた先には、脳無は跡形もなく、消えていた。

「っくくっっ…」

男の笑い声。
男はべこりとへこんでいるグランドに一人立っていて、狂ったように笑い始める。

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