クロネッカーが見た三千世界〈 QK 〉

射幸性：愛とスカラー - 7 ページ16

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伊沢が至極わかりやすく説明してくれているのだろうということは分かった。




ただそれが、私には到底理解できなくて。


何もわからなかった。本当に何もわからなかった。







「……すき、って、」



「おー」



「………すきって、……私、が？」



「だからそうだって。何回言わせんだよ」






何故こいつは平気で淡々とそう語るのだろう。


何故笑っているのだろう。何故、何故、何故。








「……、…なに、…何それ、」



「……」



「だって別れたじゃん、ずっと前に、」





そうだ。


1年間だけ恋仲というものになった私たちも、数年前に別れたはずである。




別れと言うのはお互いがそうするべきだと思ったから訪れるものでしょう。だから私たちも、互いの了承の上でそうなったはずなのだ。





それが何で、今になってこんなことになっているのだろう。



朝起きたらこんなことになっていて、状況も理解しきれていないまま好きだなんて本当に意味がわからない。





置いていかないでほしい。


こちとら二日酔いで頭だって痛いのに。







「だからさあ、別れたとかそういうの今そういうのどうでもいーじゃん」


「良くなくないって！そもそも私今の伊沢のことそんな目で見たことないし、」



「じゃあ今見てみろって。何がダメなの？」







詰まった。


言葉が。息が。




狡い聞き方。

屁理屈が首を絞めてくる。





此奴はいつもこうだ。

言葉が巧くて、知らないうちに反論ができなくなって、気付いたら丸めこまれてて。





私は何も言えなかった。


伊沢は相変わらず笑ったまま。本当に何が楽しいのだろう、ぶん殴ってやりたい。








「…ほら、何も言えねーじゃん」






嫌ならはっきりとそう言えばいいのに、私がそれを口にできないのをコイツは知っている。




かと言って受け入れ切ることもできず、曖昧なまま濁している私は。








「俺はまだ好きだよ」






念を押すように、繰り返された言葉。




未だ笑みを崩さない伊沢。


何も言えない私。


記憶がない中、物的証拠だけが揃い踏みのあの寝室。




酔った私が昨夜をどんな気持ちで過ごしたのかすらわからないのに。








「別れたとか別れてないとかどうでもいいからさ、今の俺のことだけ考えろよ。」







伊沢の背後。


テレビの中の芸能人達が、けらけらとわざとらしい笑い声を上げた。





私は、何も言うことができなかった。






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