クロネッカーが見た三千世界〈 QK 〉

射幸性：愛とスカラー - 5 ページ14

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別に珍しいことじゃない。


車で来たからと飲みの席でお酒を飲まない人っていうのは一定数いる。





…ただ、この場においては。



『何かしら』があった私達の間においては、それがほんの少しだけ、歪で。





「……伊沢は、飲んでなかったの？」


「まあ。」


「お酒入ってなかったの？」


「そりゃ車で来てたら当たり前じゃん」


「ほんとに？1滴も？」


「1滴でも飲んで運転してたら犯罪じゃねえか」





けらりと伊沢が笑った。まるで当たり前だとでも言っているような口ぶり。…いや、飲酒運転が犯罪なのはわかっているけれど。




ただ何か、その。


もっと別の何かが、変にぐるぐると回っていて。








「………伊沢、は。」



「うん」





無駄に穏やかな声。


バックのテレビがちょうどCMに入った。新しく始まるらしい恋愛ドラマの告知も、上手く耳に入らない。









「………お酒の勢いとか無しに、シラフで、抱いたの？」







てっきり私は、どちらもかなりアルコールが入っていて。


見境も判断力も思考力も低下した中で間違いが起きたのだと、そう思っていて。






しかし、それが片方がシラフともなれば話は違ってしまう。



伊沢は真面目な人だ。冷静な人だ。大学の時からずっとそう。




お酒が1滴も入っていない状況でなら例え元カノであれ、……否、元カノだからこそそんなことしないはずで。






直接的すぎる質問に少々面食らったらしい、伊沢は一瞬そのニヤついた表情を崩した。


しかし言葉通りそれは一瞬だった。瞬きの間にまた口角を緩めた伊沢は、僅かに首を傾げてみせて。









「……、…まあ、そういうことじゃねえの」







───なんて、あっけらかんと言ってのけるのだ。





今度こそ思考が完全に止まった。



わからなかった。

とうの昔に別れた印象の薄い元カノをわざわざ送ったことだとか、まともな思考の下こうなってしまったことだとか、全て私には。








「………何、で？」






気が付けばそう尋ねていたのは、本当に行動に理解が追いつかなかったからで。


もう誰が悪いどうこうの話じゃない。単純にわからなかった。何もかも、1年を共にしたはずのこの男の全てが。








「何でも何もねえよ」






伊沢の笑い声と共に、CMが終わりを告げた。









「ちゃんと冷静に考えて自制して、それでも無理だったから抱いた。それだけ。」






伊沢の答えは、ひどく安直なものだった。






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