計画的確信犯 - 3 ページ16
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全てが変わったのは、きっと偶然だった。
約5ヶ月前。
「…ねえ、君が伊沢くん?」
構内を歩いていた時、知らない人に声を掛けられた。
別に特段珍しいことじゃない。メディアへの露出も増えてきていたし、この時もああまたか、くらいにしか考えていなくて。
「…ああ、そうですけど。貴方は?」
息を吸い、かちりとスイッチを入れた。恐らく先輩だろう、フランクに接するわけにはいかない。
「あ、そうだった。俺の名前は──…」
違和感を感じた。
具体的に言えばちょっと珍しいその苗字に聞き覚えがあったのだ。
取り留めのない話を交わしながら記憶を頼り、どこで聞いたんだと探ってみる。案外それは早く見つかった。
「(…Aだ)」
そう、友人のAが好いている野郎の名。それがこいつと一緒だったはずで。
確かそいつはAと同じ学部だったはず。何気なく学部を尋ね、飛び出したのはAの学部の名前。憶測が確信に変わった。
変な偶然もあるものだ。
若干の感動を感じつつ、Aの名を出そうとしたその時、だ。
「……ねえ、伊沢くんさ、」
目の前の相手の言葉に、それが憚られた。
「あんまり大きな声じゃ言いにくいんだけどね。
──…女の子とか、紹介できない?」
ポーカーフェイスも忘れ、思わず目を見開く。
いや、わざわざ俺に話しかけてくるのは大抵そんな奴ばかりだった。それは経験則からわかる。
でも、だけど。Aの好きなやつまでもがそうだとは思わなくって。
潜めた声で話を続ける相手。
内容が全く耳に入ってこない。
思い起こされる、先輩が好きなのだと語るAの顔。
優しくしてくれて嬉しかったと照れながら笑うあの表情。
次いで視界に映るのは、口角を意地汚く歪めて話を続ける奴の顔で。
……こんなのに、Aが?
「……いいですよ、俺で良ければ」
「え、マジ?」
「はい。期待に添えられるかは分かりませんけど」
無理やり笑みを作り、俺は先輩に右手を差し出した。
重ねられた相手の右手をキツくキツく握る。
決意は固まっていた。
…なあ、A。ごめん。俺はお前のためを思ってこうするしかなかった。
でもさ、こんな奴を好きになるくらいなら振られた方がマシだろ。
──それでさ、ついでに弱ったところにつけ込めたら、なんて。
そう考えてしまった時、俺はきっと目の前のこいつと同じくらい性格が悪かった。
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山田 - 本当にお話を考えるのもそれを文章にするのもお上手でただただ尊敬です… (2022年10月12日 0時) (レス) @page24 id: 5e51f51780 (このIDを非表示/違反報告)
あー - 河村さんの話がめっちゃ良かったです! (2020年8月21日 18時) (レス) id: e630ce1c5f (このIDを非表示/違反報告)
宙(プロフ) - 290円様。あなたの三角関係系の小説すごく好きです。もちろん他の作品も好きですが、これらは小説としての魅力がずば抜けてます。あとたまに読み手に一抹の恐怖を与える作品も最高です。起承転結がしっかりしていて大好きです。まとまりのない長文を失礼致しました。 (2020年1月29日 3時) (レス) id: e047a9674f (このIDを非表示/違反報告)
むー - 好きすぎて更新されるたび心の中でガッツポーズしております。これからも楽しみにしてます…! (2020年1月22日 21時) (レス) id: 1dbbe6e605 (このIDを非表示/違反報告)
めろぱん - コメント見て頂けたようで嬉しいです!後日談楽しみにしてます…ありがとうございます…あと他の方もコメントされてますがキューピッドの続編のキャロルもめっちゃすきです…悲恋系のお話大好物なので最高です…心を鷲掴みにされました。こちらのifも楽しみにしてます! (2020年1月15日 0時) (レス) id: 18726b033e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:290円 | 作成日時:2019年9月25日 17時