計画的確信犯 - 2 ページ15
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先ほどよりは大分落ち着いたAの言葉に甘え、俺は携帯を手に取り、足早に店の外へ出た。
ひんやりとした空気が頬を撫でる。タバコの匂いと酒の匂いが混じって気持ち悪い。
携帯に表示されている名前を確認、通話ボタンをタップし、耳にそれを当てる。
『お、伊沢?』
聞こえてきたのはどこか弾んだ声。どうやら機嫌がいいらしい。
「あー、どうも。どうしたんです?」
電話相手は1個上の先輩だ。フランクに話すわけにもいかず、一度咳払いをしてそう声を出す。
電話の向こうの相手は小さく笑いを漏らした。そして息を吸い、『聞いてくれ』と前を置いて。
『あの子に告白してさ。上手く行ったんだ!
伊沢のおかげだよ。本当にありがとう!』
やっぱり。
そう言いたい気持ちを抑え、緩む口角を抑えもせずに笑う。「良かった」と、それだけ言った。
『今度また直接礼言いに行くからさ。何か奢らせてくれよ』
先輩と俺は友人だ。ひょんなことから知り合って、何人か女の子を紹介したことがある程度の仲。
──で、どうやら先輩は紹介したうちの1人を気に入ったらしい。俺に相談を持ちかけて来た。
それ以来俺はその2人の仲を取り持ち、応援してきたわけだけど。
『伊沢のアドバイス通りだった。本当にありがとう!』
最後にそう幸せそうに笑い、先輩は電話を切った。末長くお幸せにしてほしいものだ。
「…はは、何かわりいことしたな」
先輩の幸せそうな声を思い出し、ふとそう呟いた。
小さく息を吸う。相変わらずのタバコと酒の匂い。
着信履歴を消去した。…さて、店に戻ろうか。
*
「あ、おかえり伊沢」
メニューを眺めてうんうん唸っていた彼女が俺に気付き、にっこりと笑って片手を振った。俺も笑い返して席に座る。
先ほどの涙は何処へやら、あれも良いこれも良いと指折り数えるAの顔を覗き見た。どこか幼くって微笑ましい。
「…ねえ、伊沢は何食べたい?」
目が合う。
距離の近さに一瞬驚いた。
「 …あー…、俺は別に。Aが食いたいもんでいいよ」
「ほんとに? やっぱり伊沢は優しいなあ」
へへへと笑うAに釣られて口角が緩む。
優しい、か。
そうか。
彼女には俺がそう見えているんだと考えたら何だか安心して、またAの頭を撫でてやった。
Aは少し驚きながらも笑みを浮かべる。
じんわりと胸が温かくなる感覚。
ああ良かったって、心からそう思った。
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山田 - 本当にお話を考えるのもそれを文章にするのもお上手でただただ尊敬です… (2022年10月12日 0時) (レス) @page24 id: 5e51f51780 (このIDを非表示/違反報告)
あー - 河村さんの話がめっちゃ良かったです! (2020年8月21日 18時) (レス) id: e630ce1c5f (このIDを非表示/違反報告)
宙(プロフ) - 290円様。あなたの三角関係系の小説すごく好きです。もちろん他の作品も好きですが、これらは小説としての魅力がずば抜けてます。あとたまに読み手に一抹の恐怖を与える作品も最高です。起承転結がしっかりしていて大好きです。まとまりのない長文を失礼致しました。 (2020年1月29日 3時) (レス) id: e047a9674f (このIDを非表示/違反報告)
むー - 好きすぎて更新されるたび心の中でガッツポーズしております。これからも楽しみにしてます…! (2020年1月22日 21時) (レス) id: 1dbbe6e605 (このIDを非表示/違反報告)
めろぱん - コメント見て頂けたようで嬉しいです!後日談楽しみにしてます…ありがとうございます…あと他の方もコメントされてますがキューピッドの続編のキャロルもめっちゃすきです…悲恋系のお話大好物なので最高です…心を鷲掴みにされました。こちらのifも楽しみにしてます! (2020年1月15日 0時) (レス) id: 18726b033e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:290円 | 作成日時:2019年9月25日 17時