無機質へ色彩という祝福を─── (ページ38)

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無機質の瞳(ｱﾆﾎﾟｹ)※暗いので注意ページ38

サトシとの邂逅を経たその日の夜、
月夜の下にバーベラとヘレナ、Aは顔を合わせた。

貴「…2人にお願いがあります。」

バー「…？」
ヘレ「何でしょうか。」

貴「私に、N様…兄様のために命を砕けと、
命じてください。」

手を祈るように握り、穏やかに…そして無情な言葉を口にした。

当然、2人は驚きと困惑の色を伴った。

バー「A、一体何を…？」
ヘレ「……何故です？」

貴「貴女方が父を恨んでいることを知っています。

父と同じ血を持つ私も、業を背負わねばならぬ者…」

そう、Aは知っていた…2人が父を恨んでいることを。
そしてその感情は時に、己自身に向くことがあることも…

しかし、怖くはない。

自己と他者の境界を失い、個という概念を失ったAには、好意も憎悪も認識できなかった。

今思えば…、と言った程度である。

バー｢A、アナタは私達の可愛い妹…｣
ヘレ｢アナタの父を恨むことはあれど、アナタが罪を背負う必要は無いのです。｣

貴｢いいえ…
そもそもの始まりは、我々家族にあります。
世界の調和を正すため、罰を受けなければなりません。｣

過去1度も見た事のなかったAの瞳は、

かつての無機質(SiO2)のものとは違う瞳…

確かな意志と、決意を宿した瞳。

ゲーチスと同じ赤を宿しているのに、
その瞳は違う色を宿している錯覚を覚えた。

貴「さいごに真実を見付けられて良かった。」

バー「A、アナタまさか…」
ヘレ「記憶が…戻ったのですか？」

貴「父によって隠された真実…
父が理想をもって隠したかった真実を思い出しました。」

Aの母は、Aの命を砕く事は出来ず息絶えた。

気が付けば真実の部屋に居て、
父ゲーチスだけが形を持つ世界を漂っていた。

小さな結晶を包むファントムクォーツのように、ゲーチスに囲われ、守られた世界で、Aという曖昧な形で存在していた。

貴「私の作り出すサイクルは、父への罰であり、私の贖罪…」

月の光に照らされ、その瞳はより一層強い決意を示した。

曲げられぬ決意を前に折れたのはヘレナだった。

ヘレ「……A、貴女に…命じます。」
バー「ヘレナ！」

…その命を持って、ゲーチスへ罰を。

ヘレナは下した。

ゲーチスの罪へ罰を、Aの懺悔と贖罪を…

貴「…仰せつかりました、お姉様。」

そう言ったAは、穏やかな笑みを浮かべていた。

〈SiO2〉

二酸化ケイ素を表す化学式。

石英ガラスの原料。