無機質へ色彩という祝福を─── (ページ33)

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想起(ｱﾆﾎﾟｹ) ページ33

貴「私には過去がありません。

なぜ過去が無いのかさえ、分かりません。

あるのは目の前にある現在…

色も形もない無彩色の真実のみ。」

気がついた時はあの部屋の中で父と2人きり、

鉱石と知識に埋め尽くされた、無機質な世界。

ゲ『お前の名はA、

A・ハルモニア・グロピウス、

ワタクシのたった一つの……』

そう言われ、抱き締められた時、

父の顔がどんなものだったか…

彼女の目に留まることは無かった。

貴「でも…無くても良いのです。」
サト「どうして…？」
貴「今の平穏が守られるのであれば…
過去の記憶なぞ、無くて良いのです。」

木漏れ日に照らされたAは、
穏やかな顔をしてそう言った。

それは嘘偽りの無い真実の言葉。

心を閉ざし、感情を置き去りにし、

無機質な世界に1人きり…

そうしてようやく平穏を手にしたAにとって、

平穏を乱しかねない過去の遺物を必要としなかった。

しかし…

サト「そんなこというなよ！」
貴「？」

サト「今まで出会った人達、出会ってきたポケモン…全ての思い出がなかったことになるなんて俺は嫌だ！」

貴「サトシ様…記憶というものは時に、

思い出すことで足枷となる…大変難儀な物です。」

サト｢それでも、力になってくれる記憶もあるんだ！

家で待っているママ、オーキド博士、シゲルや皆…

…大切な人達で、思い出なんだ。｣

貴｢……｣

サトシの言葉が、色も形もない無機質な世界に
色彩を与えるように、世界が色付いていく感覚を覚えた。

貴｢…っ！｣

そして次の瞬間、思い出したのは閉ざされた過去の全てだった。