満月 ページ19
.
＿
＿＿＿
あの日。
白尾花火大会で小さな雑貨屋に入った。警察官として大勢の人の流れを規制する仕事がひと段落ついた俺は、同僚と休憩時間と称して小さな雑貨屋に入った。
「何だよきんとき、欲しいもんでもあるのか？」
「ん〜、人混みちょっと無理なんだよね。あ、先外出てていいよ、すぐ行くから」
「じゃあ外で煙草吸ってるわ」
同僚が手をヒラヒラさせて店を出る。
色んな雑貨が並ぶ中、もういい歳して＿＿＿ 一番に目を惹かれたのが、あの白い、毛先が各色で染められた尻尾のストラップだった。
六色分の値札が置いてあったが、俺が見た時には既に青色しか残っていなかった。
何故だろうか。
ぽつんと残されたそれが欲しかったわけではないのに、気づいたら手提げ袋に買ったストラップが入っていた。
子供がいる訳でもない、誰かにプレゼントする相手もいない、独り身の俺は仕方なく警棒につけた。ふわふわとしたストラップは警官に何とも似合わなかったが、嫌な気分はしなかった。
＿＿＿夢を、見た。
二人の青年が楽しそうに笑っている。
片方は血濡れたダガーを持ち、片方は黒光りする大きな鎌を担いでいた。不思議な光景だった。ダガーを持つ青年は、もう一人の青年を「スマイル」と呼んだ。
大鎌を見るに、それを世間一般で言う"死神"と呼ぶのが正しいのだろうが、そう呼ぶには似ても似つかないような格好。ニコちゃんマークのブローチ、茶色い髪に無駄にきっちりしたスーツ、そして＿＿色違いの、紫色に染まったあのストラップ。
彼らがとても楽しそうに話していて、それを見ていると俺まで会話の中に入れて欲しい、なんて思ってしまう。
声をかけようと手を伸ばした時＿＿＿目が覚めるのだ。起きて知らぬ間に伝う涙を何度拭ったことだろう。
「……誰なんだよ、スマイル、って」
ストラップを買った日からだ、この変な夢を毎日見るようになったのは。
それでもこれを外したら二度と夢を見なくなるような気がして、ずっとつけていた。この変な繋がりを、どこかで求めていて＿＿＿＿＿。
＿＿＿
＿
「………現行犯で、逮捕する」
あの日。
彼に手錠をかけた日。首のチョーカーに揺れる黄色のストラップを見た時、その手に血濡れたダガーを持っていた時、「スマイル」と夢の中の言葉を目の前で呟いた時、＿＿何かが繋がったような気がして、俺は。
胸の奥から込み上げてくる何かを抑えるようにして、彼に手錠をかけたことは忘れていない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 48人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「実況者」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
秋乃みなと(プロフ) - ゆんさん» 最後まで読んでいただきありがとうございました！心に残る文を書けていたなら嬉しいです...! 次回作でまたお会いできたら幸いです。本当にありがとうございました！ (2022年5月3日 7時) (
レス) id: 480327bdf9 (このIDを非表示/違反報告)
ゆん(プロフ) - 完結おめでとうございます。言葉選びや情景描写が大好きです。思わず泣いてしまいました。素敵な作品をありがとうございました。 (2022年5月2日 21時) (レス) @page24 id: 90a7e1b245 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：秋乃みなと | 作成日時：2022年3月20日 18時
