好きになんて。 (ページ1)

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"ごめん、本当にごめん"

学校が終わって家に帰るとあった手紙。
その手紙の文字は紛れもなく母のもので。
目の前には初めて見るスーツ姿の男の人が頬杖をつきながらこっちを見て座っている。

男｢泣かないんだね。｣

泣くもなにも私はまだこの状況がよく分かっていない。
さっきまで普通に大学に通っていて、今日の朝だって母は"行ってらっしゃい"って玄関まで来てくれたし、別に母と喧嘩したわけじゃないから謝られる覚えもない。

｢これって、どういう意味なんですか...？｣

きっと何かを知っているのであろう目の前の男の人に尋ねる。
ここは私の家なのに帰ってきたら家には既にこの人がいて、というかこの人しかいなかったから。

男｢え？何も知らないの？まじかよ。あんたは捨てられたんだよ。んで、有難いことにもう貰い手は決まってるから。｣

捨てられた？貰い手？
あまりにも聞きなれない言葉すぎて、やっぱり意味が分からない。

男｢本当に何も知らない幸せものだったわけ？親が借金抱えてたことも？｣

知らない。本当に知らない。
私の親は共働きだけど、自営業なわけじゃないし、ギャンブルなんてするタイプじゃないしお金に困ってるなんて聞いたことも無い。

｢借金...知らないです...｣

男｢ま、元々悪いのはお前の父親の友達らしいからそれも仕方ないか。簡潔に言うと、代理人引き受けたら借りた張本人が逃げて責任が全部お前の父親に降りかかったってわけだ。｣

｢そんな...｣

そうだ！電話！！
親と話してみないとこの人の話が本当かどうか分からない。
こんな話、いきなり信じられるわけないじゃん！
早速LINEから親の名前を探す。
いつも表示されている場所にない。
トーク履歴を見ると"相手がいません"と表示されていて、家族で作っていたLINEグループはメンバーがいつの間にか1人になっている。

電話帳に登録してある番号にかけると"使われておりません"と流れるだけ。

そこでやっと、目の前の男の人の言葉が本当なんだと理解する。でも実感はない。だから涙も出ない。

｢それで私がお父さんの代わりに借金を返すことになったってことですか？｣

意外と冷静な自分に驚く。

男｢そ。｣

｢ちなみにいくらくらい借金してるんでしょうか？｣

男｢7000万だったかな。｣

そんな大金、大学生の私には絶対に返せない。