太宰の妹は光を心に灯さない−３譚−[文スト]

７９話「水の中で」 ページ9

ｺﾝｺﾝ

中「おい、A。中原だ……」
(返事がない…？)

中「…入るぞ」

まだ部屋には戻ってないのか？

そう思ったが違うようだ

中に入ると
床に散乱している服があった

いつも彼女が着ているスーツやコートだ

それは寝室と洗面所を繋ぐように
道しるべのように落ちていた

寝室を見たが誰もいないので
洗面所のほうだろう

耳をすませば、水が勢いよく流れる音がする

ソファに座って待とうとしたが
ひとつ疑問に思うことがあった

Aは几帳面という程ではないが

服を部屋の床に脱ぎ捨てるということは
ほとんどしない

…仕方がない
なんとなく気になってしまったのだから

(べ、別に、やましい気持ちなんて、
これっぽっちも…っ)

そうだ、俺は心配で…

自分で自分に言い訳をしながら
風呂場へ向かう

よく見ると扉が少し開いていた
水の音が聞こえるのも理解できる

ｺﾞｸ…

中「…おい、A。入るぞ
…だいじょう＿＿＿＿＿！！？」



洗面所の扉をあけると

目の前の風呂場の扉は開いたままになっており


白いワイシャツを着たまま
頭から水をかぶるAがいた＿＿＿


ｻﾞｧｧｧｧ＿＿＿


声をかけながら此処に入ったため
Aがこちらへと振り向く

『…あぁ…中也……どうしたの…？
そんな…驚いた顔をして』



中「どう…したの、だって…？」

シャワーがでたままの風呂場へ
濡れることなど気にせず

Aの目の前に行き腕を掴み
こちらへ引き寄せ
シャワーの真下から外れさせる


中「どうしたの…じゃねぇだろっ
上の服を着たままっ

それにこれっ…水じゃねぇかっっ…」

辺りに漂う冷たい空気
己にも降りかかる冷たい水

『…』

そう言ってもAは
何も言わず、黒く沈んだ瞳を向けるだけだった

８０話「ワイシャツ」→←７８話「時間」

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す