8話 ページ9
「くっそ、もう少し早く授業が終わってたらな」
和臣が、長い脚をもてあますようにして階段をおりながら、くやしそうに言う。
「犯行現場を押さえられたかもしれなかったのに」
前を歩いていた貴和が、足を止めてこっちをふりあおいだ。
「出くわしてたら、それこそあぶねーよ」
そう言って貴和は拳を上げ、親指でトンと和臣の心臓をついた。
「やられるぜ」
青く見えるほど澄んだその目が、一瞬、ギラッと光って和臣を射とめ、和臣は息をのんで立ちすくんだ。和彦や立花さんも動けないようだ。
私は気にせず和典についていく。
「若武、チャリ、どこに置いたんだよ」
そう和典が言うと和臣は和典のそばをすりぬけて玄関わきのドアに歩みよりながら言った。
「こっちだ」
「盗難防止用チェーンで、ここにがっちりしばりつけといたんだけどさ」
「チェーンごとやられたんだ」
瞬間、私と和典が叫んだ。
「「若武/和臣、その足どけろ/どけな！」」
私たちの緊張した声に、和臣は反射的に飛びのいて、自分の靴の裏をのぞきこんだ。
「なんだよ」
私と和典は、それには答えず電柱に歩みよると、表面をこすったり、あたりのアスファルトの上をなでたりしながら、和典が言った。
「盗難防止用のチェーンのビニールコーティングは、黄色だよな」
和臣はびっくりしたように顔を上げた。
「どうしてわかった？ここに来る途中で、新しいのを買ったばかりだぜ」
その質問を無視し、今度は私が和臣に言った。
「鍵のタイプは？」
私の声がするどくなるとつられて和臣も、真剣な口調で答えた。
「ダイヤル錠」
すかさず私がつっこむ。
「何連？」
和臣が答える。
「6連」
「それ、おかしいわ」
私たちの間の緊張が途切れる。
その発言に疑問を持った立花さんが聞いてきた。
「なにがおかしいの？」
和典は、ゆっくりと立ちあがり、立花さんたちのほうに向きなおった。
「6連のダイヤル錠なら、簡単にあけられる」
そうそう、6連なんて2分もあれば余裕だしね。
立花さんは貴和に聞き、私が思っていることと同じことを言うと、立花さんは驚いていた。
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作者名：ゆきしま | 作成日時：2021年3月25日 17時
