88話 ページ41
「何を、知って居るッ……」
何も知らない。でも知っている
その言葉が頭に浮かんだ時にハッとした
あーあ、口走っちゃった。だなんて今更後悔している
こんなに喋ったら後が面倒だ
でも、退屈な時間が少しでも減るのなら
死ねる機会が増えるのなら
と呑気な事を瞳が揺らいで居る尾崎紅葉を視界に入れ乍ら考えていた
「っ、」
空気がぶわっと揺れて、気が付いたら背中が壁に押し付けられていた
出来事はほんの一瞬だった為に何が何だか判らず、霞んだ視界で顔を上げて状況を把握する
そこにはもう一体、夜叉白雪とは違う夜叉が居た
「ぐっ、…!」
あれだけ隙が出来て居たんだ、幾ら動揺しようともそれを狙わない敵なんて居ないだろう
腹部に刺された刀の所為で流れ出る血を感じつつ、またも違う事を考えた
「悪いのう童。これも仕事でな」
「やめて!」
「嗚呼……その表情!愛いのう。何でも聞いて遣りたくなる。しかし済まんの、鷗外殿の命はこの小僧の始末でな」
「っ!!」
だったらさっさと始末してくれれば良いのに…
中途半端が一番辛い
二人は何かを話しているが、此方は自分の事で精一杯だ
首に刃を向けられようとも、それが少し刺さろうとも。そんな事は考えられなかった
生きているという実感を持たせる痛みからどう逃れようか……
「うっ」
そんな時、夜叉がふと消えて躰が地面に叩き付けられた
躰に力は入らないが生きている
生きているんだ
溜め息が出そうになるのを堪えて目を少し動かせば動揺した様な、困惑した様な、辛そうな顔をして瞳孔を開く鏡花ちゃんが見えた
「……その様子だと童も知って居ろう。夜叉が鏡花の両親を斬殺したの事を」
「……ッ!!」
直ぐそこでブレーキを掛けた車の音がして、気が付いたら複数の銃を向けた男達に囲まれていた
「ちが……」
「……」
そんな事は知っている
だがそれを口に出して弁解した所で何になる?
それに今は声が出しづらいんだ
口の中が鉄の味しかしないから、喉に張り付いているのだろう
青褪めた顔をする鏡花ちゃんと、銃を向けた男達を眺めるだけだった
非道い奴だって?何でも云ってくれ
何せ私は最初から君に成り代わるには相応しくない人間なんだ
安心しろ、これからは君にちゃんと徹しつつも消える方法を考える
だから今は少しだけ……
「頭下げてくださーい」
……あれ、車は宙に浮くっけ
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銀色ミカン(プロフ) - 1話から一気見しちゃいました!面白いです!更新待ってます。頑張ってください! (2017年12月17日 2時) (レス) id: c55513f974 (このIDを非表示/違反報告)
時雨零(プロフ) - お待ちしておりました!おかえりなさい! (2017年11月14日 0時) (レス) id: 7585b82a1c (このIDを非表示/違反報告)
芋娘@悪の伝道師?ウリエル?(プロフ) - ファッ!?オーストラリア!?あらまー…お気を付けて!! (2017年10月31日 14時) (レス) id: a51cded6e4 (このIDを非表示/違反報告)
紅月(プロフ) - オーストラリア!!!羨ましい…!楽しんで下さい!!! (2017年10月30日 22時) (レス) id: 97c5c84046 (このIDを非表示/違反報告)
ロイゼ@魔法契約民(プロフ) - いってらー、です! 楽しんできて下さいね(^^*) (2017年10月30日 16時) (レス) id: 677bf3b84c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:のんのーー | 作成日時:2017年10月15日 20時