すきな思い出 ページ39
手を洗って包丁を握ったときも、おにぎりを握っていた時も、特にお互い何の会話もなかった。
そう言えばこうやって誰かと並んでご飯を作るなんて何年ぶりだろう?母さんと作ったおにぎりは微妙に余って一個だけ小さくなってしまったな。蛍とリリィの時は二人共さんかくに握れなくてまんまるのおにぎりになってたっけ。父さんのは強く握りすぎてあんまりおいしくなかったけど。
なぜかここにいると楽しい思い出で溢れてくる。優しい気持ちでいっぱいだ。
そんな素晴らしい記憶を味わっていると、いつの間にか作業が終わっていた。...幸せな時間だった。
ぼーっと脳裏に残る思い出たちをなぞっていると声をかけられた。
「大丈夫か?」
『はい。心配するようなことは何も』
そのままを口にする。
「案外料理上手なんだな」
『母直伝ですからね』
「それと、これ」
少し小さめのおにぎりを手渡される。
「いわゆるお駄賃だ」
そっぽを向きながらそういった。
『ありがとうございます...あ』
思い出した。お母さんも余ったって言っておにぎりをくれたけど、いつも思ってるより多くお米をわざわざ炊いて、お手伝いありがとうってくれるんだ。それも、ご飯を残さず食べれるように大きすぎることも無いんだよなぁ...もしかして朧さんもそうなのかな...なんか
『家族みたい』
ポロッと零れ出た声を聞いてか聞かずか、朧さんの表情が少し緩かった気がした。
♯
夜になり、縁側で自由な足をプラプラと遊ばせていた。
あの施設の頃の名残なのか夜はあまり眠気がしない。昼の時のようにまた綺麗な思い出に思いをはせていた。子守歌をか細く歌うと不意に妹たちの面影を瞼の裏に見てしまった。結局続きは教えて貰えなかったな...
『あれ?』
ここにきて、自由になったっていうのになんで昔ばかり慈しんでいるの?なんでいつまでも過去にばかり縋るの...
『なにしてるんだろ』
「本当ですよ、もう寝る時間です」
『!びっくりさせないでください...松陽さん』
ほっと胸をなでおろす。やっぱりまだ誰のかわからない足音とか声は苦手みたいだ。
「月を見るのが好きなんですね」
『好きと言うよりは、名残と言うか。そもそも月光が無いと生きていけない体なので。松陽さんは好きなんですか?』
「私も月がと言うよりは貴方と話すのが好きですね」
なんて冗談めいたことを言った。
「そうだ。一つ聞いても?」
『はい?』
「...なにがそんなに恐ろしいのですか」
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作者名:男主愛好家 x他1人 | 作成日時:2020年11月1日 13時