信じてみたい ページ36
真っ暗闇。ひたひたと零れる紅。艶やかに血を纏い、わずかに月の光をうけ照らし出される拷問器具。そのすべてが俺を殺そうとした証。でも死ななかった、死ねなかったし、死んだ方が楽だと知ら思える。
ふと、血でできた水面に自分の顔が映る。かつて両親や妹たちが生きていた頃のにこやかな表情は見られず、瞳に輝きなどお世辞にもあるなんて到底言えなかった。
もうずっと隠し扉の先の牢に繋がれたまま、動けない。でも、だから何なのだろうか。例え動けたとしてもこのぼろぼろの心では途中で死んでしまうに違いない。どちらにしろ、ここから逃げる術なんて.....
「誰かいますか?」
『っ!!』
外から声がする。また地獄が始まるのかとそれこそ亀のように身を丸めて怯えたが、声が柴庭ではないことに気づき恐る恐る声の方に向いた。牢の壁の向こう側に誰かいるんだろうか...
『い、ます。貴方はっ...だれ?』
声が震えてうまく喋ることさえかなわない。
「貴方に助けていただいた者です。覚えているかわかりませんが」
誰なのか思い出そうと記憶の旅を試みたが、思い出すまでに嫌な記憶が呼び起されそうになってやめた。
『何を...しにきたの』
「...助けてほしいですか?」
『?』
何を言っているのかわからなかった。
「私は貴方を助けたい。貴方は、どうしたいですか?」
ずっとわからなかった。この人が誰なのか。でも今わかった。
『貴方はあの時の鬼さん...?』
「覚えていてくれたんですね。あの時は名前を聞きそびれてしまった、いま聞いたら答えてくれますか?」
『え、えぇ。名前は月下Aです』
壁の向こうのあの人は笑ったような気がした。
「A。貴方は助かりたいですか?」
『っそんなことが出来るのですか...?』
「そんなことどうだっていい。貴方がどうなりたいかです」
助かりたい。確かにそうだ。でもそれはつまり、この人を信用するということ。とても難しいことだ。そもそもこの人はあの時の鬼では無いかもしれない。
『一つ。聞かせてほしい。なんで俺を助けようと思ったんですか?』
押し黙る。俺はなぜか、いつまでも答えを待っているつもりだった。
「言葉を借りるなら、"貴方と同じ"だからでしょうか」
確信した。この人になら...
今のを聞いて考える余地など無かった。
『お願いします...助けて下さいっ!!』
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作者名:男主愛好家 x他1人 | 作成日時:2020年11月1日 13時