わかるよ ページ30
青年の指さした方向に暫く歩いていくが、ことのほか遠い。月が出始めたころにようやく目的地に着くことが出来た。
「そこん兄ちゃん」
中年くらいの男の人に声をかけられる。
『何でしょう?』
「あんた、良い刀持ってんじゃあねえか!試していったらどうだい?」
『試す...なにかそういうものがあるんですか?』
「ものと言うか人というか。いや、ありゃ"鬼"か。いくら叩いても死なねえから嫌なことがあったらくるようにしてるんだ。多いぜそんな連中」
親指で指さす方向に例の鬼がいるのか。で、こいつらはそれを迫害してると...
『ありがとう、行ってみるよ。でも』
「??」
刀を抜く。
『切れ味を試すなら、別にアンタでいいよ』
一歩下がり首筋に刀をあてがった。
『なんてね』
笑ってみるが、相手にとっては笑い事では無かったようだ。すぐに逃げ出してしまった。
『てめえで死ねないのに誰かを殺すなんて...烏滸がましい』
牢に近づいていくと人が増えてきた。全員中の奴で憂さ晴らししてるのか?
『反吐が出る』
人ごみの中一人刀を手に進む。
『...どけ』
こいつらには峰内なんて贅沢な真似はしてやらない。歩くたびに血と悲鳴が纏わりつくが構いやしない。やっと静かになったとき、俺は既に柵の目の前に立っていた。
「貴方も彼らと同じですか...」
『いや?』
手を翳し、柵を壊す。
『彼ら、ではなく貴方と同じ』
しゃがみ込んで顔を覗く。
肌が白く、髪は長く、女の人のような出で立ちをしている。声を聞かなければ男だと気づかなかったかも知れない。だが、光を伴わない紅の瞳はどこか不気味さを覚えた。
「嘘なんてつかなくていいですよ。不死身なんてそうそういる訳がない」
『じゃあ目の前で耳でも切り取って見せようか?』
「...どうなっても知りませんよ」
耳に刃をあてる。なんの弊害もなく右耳が地面に落ちたが、瞬きをした次の瞬間にはもう治っていた。
目の前の"人"は目を見開いていた。
『何をされてきたのかそれを聞くつもりはないけれど、もう自由だから。好きなところに行ったらいいと思うよ』
妹を見るのと同じ、慈悲を兼ねたまなざしを向ける。
もういいかと立ち上がり、月の下に出て行った。
「待ってください」
後ろから声がかかる。
「せめて名前を、教えてくれはしませんか?」
『...堂々と名乗れるほど、俺は良い人ではないので。それでは』
月光に照らされながらその場を駆けていった。
ーーー
嫌いな人種は敬わない夢ちゃん
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作者名:男主愛好家 x他1人 | 作成日時:2020年11月1日 13時