【銀魂】光に焦がる虫

不愉快なそれ ページ7

ある日の夜。







「ーー久しぶりだね、A」


紳士的な声が聞こえた。
「ええ、本当に」そう言って作り笑いを向けた先には、確かに、久しく見ていなかった顔があった。





「水岡さん、最近はちっともきてくださらないから
もう私に飽きちまったのかと思ってた」


「すまない。仕事で少し厄介事が起きてね」




水岡信彦。
違法に武器関連の商売を営む男だ。

紳士的な話し方や身なりと違い、その中身は、
ひどく冷たくひん曲がっている。




私のすぐ隣に腰掛けた水岡は、吟味するように私を
覗き込み、首をかしげた。







「・・以前と雰囲気が変わったね。何かあった？」


「ふふ、・・まあ少し痩せたかも」

「なるほど。女性は常に美しく変化する」




甘い常套句。
肩に回された腕が、ぐっと距離を縮めた

耳元で囁かれる言葉に、前は何とも思わなんだが、





(ーー今は、ひどく不愉快だ)




やっぱり厄介な男だったのだ、あの人は。
私が、ここで生活するために鈍らせたすべてを、
また思い起こさせた。


あんなに綺麗なものに触れてしまえば、
薄汚れたネズミに嫌悪を抱くのは当たり前だ。








「今日は随分と無口だね」

「水岡さんこそ、・・今日は随分と積極的だね
いつものお喋りはここまでかい？」

「そうだね。ーー今は、君に触れたい」




首元を這う手は、ひどく冷たい。
振り払いたくてもそれができないのは、遊女として
仕事を全うしなければならないという使命感。





「仕事、そんなに大変なのかい？」


「・・君も会ったことがあるだろう？大友総二郎。
あいつが、ヘマをして警察に捕まった」




「ーーえ？」





大友総二郎とは、随分デジャヴな名前である。
何せそいつは、私が彼に情報を売った客の一人で
あり、ーー先日彼は、その件は片付いたと。

・・・そういえば、大友もこの男の紹介で
ここに通い始めたんだった。






「警察に、捕まった？」

「あぁ。とんだ役立たずだ。・・まあどうやら、
未だ私のことを何一つ漏らしていないらしい。
そこだけは評価に値する」




いや、そんなことはどうでもいい。
大友のことなんて、もはや。


ーーー違う。私が、気になるのは。








(・・"けいさつ")





もし、土方が片付いたと言っていた意味が、
大友を逮捕したということと同義であったなら、





土方十四郎とは、一体____？





トクン、と大きく鳴り響く心臓の音。

それはやがて激しさを増した。

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